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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘

"やだなぁ、しーちゃん。冗談だよ~"
……なんて言葉はナツの口からは漏れてこない。
至って本気に事を進める気らしい。
あたしの背中にいつの間にか廻っているナツの指先が、服越しにさわさわと、あたしのブラのホック付近に円を描くような動きを見せている。
こんな人だからの中で、まさか、え、まさか?
「ちょ、ちょちょちょ……おイタはよそうね、ナツくん」
「ん?」
汗だくでナツを諫めようとすれば、こちらの方が絆されてしまいそうになる、無邪気な笑みを向けられる。
これは確信犯だ。
「か、可愛く首傾げても駄目だったら!」
「ん?」
表面上、あたし達のやりとりは和やかに。
だけどナツがおイタする準備は、着々と整えられている。
あたしの意見などお構いなく、この満員電車の中で強制的に――。
しかも、すべてナツはあたしをとろりとした眼差しで見つめながら進めてくるのだ。
あたしの反応のすべてを見逃さないようにして、同時にナツにあたしの意識のすべてを向けさせるかのように。
そうやって、吸い込まれそうなほどのナツの茶色い瞳を、こんな近くから向けられ続ければ、見惚れたまま……気づけば時間がすっと止っている。
すごい吸引力があるんだ、ナツの目には。
そして気づいたら……。
ドアにつけられたナツの曲げた膝。
その上にあたしは乗せられ、ナツとつかず離れずのほどよい距離が生まれていた。
これは満員電車においては安全領域。だがあたしには警戒すべき危険領域。
変態王子がおイタするには、絶妙な距離感だ。
ナツが手際よすぎるのか、あたしが間抜けすぎるのか。既にあたしはナツの術中にいる。
「ふふふ。ますます動けなくなっちゃったね……?」
ナツは妖しげに笑いながら、顔だけを至近距離に近づけ、伏せ目がちにあたしの唇に熱い息を静かに吹きかける。
そしてゆっくりと、熱い蜜で蕩けたような目をあたしに向けた。
恍惚としたような甘く艶めいた顔。
その、あたしを翻弄させるオトコの顔は、瞬きひとつからして、ただただ扇情的にあたしを挑発し、理性を蝕む毒をあたしに植え付ける。
ナツに毒されたあたしは、動悸と熱感に乱れる細い息で、ナツと溶け合い消える時を待つしかない。
体がナツに染まっていく。

