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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
  

「しーちゃん、しーちゃん……」


 ナツはあたしに抱きついたまま離れようとしない。

 電車で、ほわほわとした意識の中、ナツの熱をせがんでいた記憶がうっすらと残っている。

 だけどスリルと快感とで、あの後ほぼ1時間……到着するまであたしは脱力したように眠りこけ、その間中ナツが律儀にもずっとあたしを抱擁していたことに、目覚めた時驚いた。


――おはよう、コアラのしーちゃん。可愛いから、このまま運んでもいい?


 お母さんのように慈愛深い眼差しで迎えてくれたナツ。

 ほっぺた同士すりすりされて、微睡むような温かい庇護下にずっとおいでと誘惑される。

 しかし"しーちゃんコアラ"は、"ナツコアラ"から自立し、地に両足をついて歩き始める覚悟を決めた。


「しーちゃん……」


 だがナツコアラは子離れが出来ないようで、あたしにひっつくようにして、共にゲートに歩きながらもしくしく泣き出している。


 勿論奇異の眼差しが向けられている。

 王子様顔の大きな男が、ぽろぽろ涙を流し、あたしがよしよしと頭を撫でながら、密着してくる体を引き剥がしているのだから。

 ナツ同様に機転がきくらしいモモちゃんは、優待パスポートを入場券に変えたり、荷物をホテルに運ぶように手配するなど大忙しで、あたしの庇になってはくれない。


「せっかくしーちゃんが僕とくっついていたいとおねだりしてくれたのに、僕はこれから戦場……。だけどもしも、しーちゃんがどうしても僕と離れたくないというのなら、やめても……」


 ナツがまさかのリタイヤ宣言をしかけた時、モモちゃんが帰ってきた。


「……ナツ、隣の"合宿場"から準備は整っていると連絡があったぞ。スタッフ一同、全身全霊で奈都様の強化をさせて頂きます、だと。あれだけの詳細なデータに基づいて作った設備ならば、きっと効果は期待できるぞ」


 なにやら、大ごとな合宿になるらしい。

 ナツの早漏対策に、なんの詳細データが必要となるのか。


 だがそれだけのスタッフが一丸となって、ナツの応援をしてくれているのなら。


「ナツ、皆が好意的に待っててくれてる。とりあえずは行きなよ?」

「しくしく……」

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