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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘

「モモ殿、実は拙者……水泳が得意でござる!! あの長い温泉プールで、いざ勝負!!」
「……どこの武士だよ。というか、あんたの頭……見てみたい。なに入っているんだよ……。ま、昔脳という名前だったゴミばかりだろうが」
「お黙り。カナヅチに見えるんでしょう、あたし。ふふふふ……。実際どうなのかは、勝負してから味わいなさいよ」
「あんた……上から目線になると必ず空回りする癖が……ああ、はいはい。勝負しましょう、目をきらきらさせてどれだけ自信があるんだか。本当わかりやすくて……飽きねぇな、このひと」
律儀にツッコミながら、可愛くない減らず口をたたくのはいつものことなれど、モモちゃんは柔らかな笑みを見せてくれるようになった。
あの嫌みったらしい顔ではないことに、少しだけ心がほっこりする。
あたしは、泳ぐことには自信がある。
小学生の時、無理矢理ハル兄に引き摺られて、近くの区民プールにて地獄の特訓をされたのだ。
あたしのパパがハル兄との書道タイムの時に、あたしが昔、波に浚われ海で溺れて以来、水が怖くてカナヅチが克服できないために、学校のプールの授業が憂鬱がっていると話してしまったらしい。
――おい、こらシズ!! 闇雲に手足をバタバタするな。手はこう!! 足はこう!!
……あたしは知らなかった。
死ぬ思いをしながらスパルタされつつ、短期間にて完成させられた完璧フォームが、バタ足もできない初心者の小学生にしてはあまりにも難易度が高すぎる、"バタフライ"だったことに。
そのフォームでなら泳げるようになった時、いつも見学組だったあたしは、突如小学校で一番の早さを誇り、"時の人"となってもてはやされた。
だが、あたしはそれ以外のフォームでは泳げない。
ただのバタ足ですら溺れそうになる。犬かきなんてまるで駄目。
クロールをしようとすれば息継ぎが出来なく途中で力尽きてそのまま沈み、平泳ぎなんかしようものなら、手足の動きのタイミングが掴めず、横に浮いているはずがいつのまにか垂直になって立ってしまう。背泳ぎなんて絶対無理だ。どうして皆、背中で浮けるのか謎だ。

