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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘

 

 12年前――以前のあたしは、彼氏が居なくなる度に大失恋の痛手を、よくユリに訴えていた。そしてよくユリは家にあたしを泊めて、辛抱強くあたしの話を聞いてくれた。


 あの時のあたしは自分に一杯一杯で、ユリしか記憶になかったけれど……考えてみれば泊まったのだから、あたしの姿は弟君であられるモモちゃんにも当然見られて然るべきこと。


 そして思い返せば、ユリの家の冷蔵庫には、未成年の子供がいるというのに缶チューハイとビールが詰め込まれ、そしておばさんがパート先から大量に貰ってくるらしい納豆だけが、唯一の食糧として大量に入っていたように思う。


 そして、泣きじゃくるあたしはいつも"新発売のジュース"として騙され、ユリにきらきら綺麗なパッケージの缶チューハイを飲まされていた。

 当然のように、泣いて笑って騒いで前後不覚に陥って、だけど次の日は二日酔いにはならずに、気分爽快で……さすがは親友の癒やし効果だと満足していたような……。

 そうかあたしが元気になった裏では、アルコールが暗躍し、モモちゃんが泣いていたのか。


 現在淫魔を目覚めさせる厄介なアルコールは、あの当時は今のような深刻な"発情"という発作を起こさずにいた……わけでもないらしい。

 少しずつ、その兆候はあったようで、客がいようがなにしようが自由奔放の性生活を披露するユリの両親に刺激された……というよりは、モモちゃんに魔手を伸ばしてしまったのは、酒の力もあるのだろう。


「わかるか!! 納豆だぞ!? 俺が大嫌いなあの納豆を、まだ残した唇で!! しかもあんた、口の中の納豆を……俺の口に入れてきて、俺の肩を掴んで無理矢理食わせたんだぞ!?」


 モモちゃんは屈辱の涙目だ。


「……それは……キツいね。 多分、食べさせようとしたんじゃなくて、モモちゃんを食べようとしてたんだろうけど」

「人ごとのように言うなよ!! 同じ事だろうが」


 モモちゃんにとっては、口の中のものを移動させるものは卑猥と言うよりは、ただの嫌がらせにしか過ぎなかったらしい。
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