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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘

「脇のベンチに置いたパーカーとタオル取ってくる……」
モモちゃんは暫く前屈みで動かなかったけれど、あたしによる見事な強制的鎮静に成功し、恨みがましい涙目であたしを睨みつけた直後に猛ダッシュ。
途中もう一度あたしに振り返り、やはり涙目で睨みつけていった。
余程、痛かったのだろう。
走り去る様は颯爽としているけれど、どことなくよたよたしてたもの。
アイアンバトラーの息子さんは、アイアンの称号はもちえなかったらしい。
その間、ひとり残されたあたしは真っ裸のまま、びくびくしながら首だけ水面に出して温泉に浸かっていた。
この場所は波も流れも滞る穴場らしく、何度も人……それもカップルがいちゃつきにくるけれど、その都度あたしが血走った目をカッと見開いて、ここへ近づくなと念を送っていたら、皆悲鳴を上げて逃げ去った。
あたしってエスパー!?
興奮している最中にモモちゃんが戻って来て、鼻の穴を膨らませて湯に潜んでいるあたしを見るとぎょっとした顔で言った。
「……怪しげな河童の怨霊がいると大騒ぎしてた奴がいたけど……あんたかよ」
「か、河童の怨霊!?」
なんと失敬な!!
「らしいぞ。しかし……怨霊はいいとして、河童かよ……っ、なんで河童を連想させるんだよ、あんた……。くく……あはははは」
モモちゃん、笑いのツボに嵌まったらしい。
「飽きねぇ……はははっ、マジにあんた、お笑い芸人になったら?」
笑うモモちゃんは、意外にあどけない表情をする。
いつもが実年齢以上の落ち着いた物腰だから、これこそが年相応の顔といえるのかもしれない。
取り澄ましたような、皮肉めいた表情ではないのが嬉しい。
ぎこちない関係にならずにすんだのが嬉しい。
嬉しいけれど、なんだか複雑だ。
「お笑いって……あたし別に笑いとってないから!! それに、あたしは死んだ河童の幽霊じゃなくて、ちゃんと生きたエスパーよ!?」
「はいはい。中二病の河童さんにプレゼント。頭の皿を大切にな。脳みそとは違い、ひっからびたら生きていけなくなるぞ、エスパー河童」
あたしの訴えを軽くあしらうように笑いながら、モモちゃんはあたしの頭にナツのパーカーとタオルを投げ寄越した。
だからあたしは河童じゃないっちゅーのに!!

