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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
  


 長い睫毛がふるふると震えている、初々しいピュアボーイ。

 やばいよ、お姉さんきゅんきゅんきちゃったよ。


「すごく嬉しいのに……」


 モモちゃんはあたしの手首をがしりと掴むと、顔をそらしたまま……自分の左胸にあたしの手を触れさせた。


 どくどくどく。

 モモちゃんの鼓動は凄い早さだ。


「どうしても俺には、不可解な情動がある」


 接触を嫌がるモモちゃんが、積極的に接触を試みているせいなのか。

 手を引こうとしたけれど、モモちゃんはそれを許さない。


「なぁ。俺のここが……ぎゅっと苦しくなるのはなんでだろう。頼られて嬉しいのに、苦しくなるんだ」


 依然、自分の胸にあたしの手を触れさせながら、口から離した片方の手で……あたしのパーカーの裾に指先をかけ、あたしを見た。


「それだけじゃない。我慢……できなくなる」


 切ないほどに真摯な表情に浮かぶのは、戸惑いに揺れる眼差し。

 それをきゅっと苦しげに細めてモモちゃんは言った。



「あんたに……触れたい」


 まるで欲しいものを強請る子供のように――、


「この服の下の肌に……触れたい」


 裾を引っ張る指に力が入る。


「いつものようなガキとしてではなく、あんたを守れる男として、あんたが俺を頼ってくれるのなら、そんな"女"のあんたに……触れたい。

触れて……ああいう顔をさせてみたい」


「ああいう顔……?」


「ナツや……波瑠さんと一緒の時のような、あんたが感じている顔」

「は、はい?」


「俺の玩具を使った時も、あんな顔だったのかとか色々考えてたら……止らなくて。緊急時限定でいいと言ったばかりなのに……だけど今、それが無性に嫌で。必要とされるのなら俺でもって、欲が止らない。俺、なんか変だ。どうしよう。あんたに触れたい」


 揺れて揺れて、なにかが零れ落ちそうな熱の滾ったモモちゃんの瞳。



「……触れたい、触れたい」


 絞り出すようにモモちゃんが訴えた時、開始のホイッスルが鳴り響く。


「時間……切れだ」


 モモちゃんは泣きそうな顔で笑い、項垂れた。

 そして――。


「行くぞ」


 あたしの片手を引いて歩き始める。


「ナツ……早く帰ってこい。このままだと俺……」


 戸惑うあたしには、哀切に響く独り言は聞こえなかった。
 
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