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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 

 意味不明な理由であたしに利用されていたらしいハル兄は、涙目でそう言い……、あろうことかあたしの番に、突然父兄席から走り出て、圧倒的な速さであたしの前方を走り抜けた。


――俺は、当て馬なんざ、認めん!!


 小学生のガキ相手に、本気を出した挙げ句に、ゴールにて高らかに笑って、びしぃっとあたしに人差し指を突きつけて言ったんだ。

――おら、見たかシズ!! 1位は俺様だ。お前は2位だ!! 俺様に勝てるとでも思ったか、がはははは、このアホタレ!!

――あの…父兄の参加は……。

――うるせぇ、ヘボ坊主!! 勝負の世界に口出しするんじゃねぇ。ほら、俺様をとっとと1位の場所に連れてけ!! 連れて行かなきゃ、どうなるのかわかってるんだろうな、ゴラア!!

 あたしが手を引かれたかったイケメンは、サバンナの帝王に脅されて泣く泣く……ハル兄に首根を掴まれて引き摺られながら、あたしは泣く泣くブサメンに手を引かれながら。

 こんな結末になるのなら、例年通りなにもしないで3~5位でフツメンに手を引かれたかった。

 ……そのあと、ブサメンになにか勘違いされたらしくつきまとわれ、それはハル兄が撃退してくれたから、この件は帳消しになったけれど…。

 

 "愚民如きが、俺様差し置いて頂点取れるなどふざけたことをぬかすな"


 ああ、あの時の鬼畜魔王の声が頭に響く。

 頂点の夢を見せてくれていた相手が自ら、あたしをどん底に突き落とし、儚い願いを抱いた愚民がささやかな夢を見ることすら、分不相応すぎると罵られ嘲笑われ、せせら笑われている……そんな屈辱的な気分。

 
 "この愚民が"


 ……む、むむむ……むかっ!!!


 あたしのやり場のない怒りは、ハル兄の怒りにすり替わる。


「誰とは言わないけれど、再びあたしに甘い夢を見させた大魔王に一発、殴らなきゃ……(※ただし殴り逃げ)」


 あたしはぐーにした拳に力を入れて、覚悟めいた声を出す。

 完全八つ当たりだと思うけれど、あの時同様……あたしのこの不条理さが消化できない。
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