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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 


 ふと、暖かいものがあたしの頭を撫でた。


「お嬢さん……」


 それはよく入れ歯を外す、お爺さんの手だった。

 しわしわな顔をますますしわしわにさせながら、笑顔で言った。


「その人形は、儂の……死んだ弟の生き写しなんじゃ。だからどうしても、傍に置いておきたくての。粗末になんざしないつもりだ」


 感動的な台詞の最後に、やはり……入れ歯が取れかかって落ちそうになったのを、慣れたように手でカポンと押し入れたのは、不問にしよう。


「弟さん……?」

「そうだ。戦死してしまったんじゃ……。たまたま、瓜二つの少年がいると知り……、どうしても弟だと……」

 小さな目から涙を流し、またもや鼓のようにカポンと口を叩いて、ずり落ちてきそうな入れ歯を押しやりながら。


「私達は、このお人形を弟のように孫のように……。語りかけたり一緒にお食事したり。命の限り大切にするから、だから安心してね、お嬢さん……」


 お婆さんまで泣きながら、あたしの頬を手で撫でてくれて。


 これが優勝した卑猥すぎる夫婦とは思えない。


 よかった。

 せめて、ナッちゃん…、温かい人達に貰われることが出来て、よかった。


 後ろでモモちゃんが呟いた。



「この爺さんがナツそっくりな男性の兄ということは……」


 ………。


 毛がはらはら…。よぼよぼ…。しわしわ……。

 イケメンでも必ず歳をとるとはわかっているけれど……、


「お爺さんは若い頃、どんなお姿で? ナッちゃん人形のような王子様タイプだったんですか?」


 聞かずにはいられない。



「全然違うわ、この人……」



 お婆さんがきゃっきゃとしながら、言った。



「黒髪で野性的で、王子様よりジャングルの皇帝のような偉そうなイケメンだったのよ。今で言う……"お・れ・さ・ま"」


 あたしはモモちゃんと無言で顔を見合わせた。

 互いに無表情だ。


 口が裂けても言えない。

 この入れ歯外れまくりの貧弱なお爺さんが、ハル兄の老後の姿かもしれない、とは――。



 サバンナの帝王は、歳をとらない。

 そう思っておこう……。


 目で語りかけると、モモちゃんは実に複雑そうな顔をしながら、しっかりと頷いていた。



 
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