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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 

 とくとくと身体に回るその毒が、あたしから思考力と抵抗力を奪っていく。周りが切り取られ、あたしだけしか認識できない。

 孤立したような寂寞感。孤独な冷涼感に、背筋に悪寒が走った。

 それが、あたしの理性に対する警鐘だと気づく余裕もなく――。


 そんな中、温かい光が見えた。


 甘い微笑みを浮かべたナツだった。


「……ね、"しーちゃん"?」


 聞き慣れた、囁くようなその甘い声が、あたしはひとりではないよと、優しくあたしを包み込む。



 ああ、ナツがいる――。


 そのことだけで、すごく安心した。すごく嬉しく思った。



「しーちゃん、好きだよ? 好きだから、ずっと一緒にふたりでいたい」



 どくん。


 あたしの中の淫魔が呼応している。

 それは欲情とはまた違う、恋心のような甘い疼き。


 どくん。


 あたしの変化を見透かしているかのように、あたしがよく知るナツが、あたしを愛おしそうに見つめた。


 もう、あたしの世界には……ナツしかいない。

 この世界では、ふたりだけしかいないんだ。


――NATSUを男として意識して、愛しているんです。


 否定出来ない要素があるのは確かだ。


 ナツだからこそ、淫らなことを許している。

 あたしは誰も彼もに身体を許すような、安い女ではない。


――しーちゃん、僕を見て。しーちゃん、好きなんだ。


 ナツの言葉に絆されたのは、庇護欲だとか流されただけの結果じゃないと思う。あたしの中でも、ナツを愛おしいと思う心はあった。

 だけどそれが恋愛感情なのだと、積極的に認めてこなかったのは――。


 こなかったのは――?



「しーちゃんは、他の男など求めていない」


 他の男?


――なぁ、シズ……。


 思い浮かんだ誰かの声も面影も、ナツの柔らかで綺麗な微笑みに掻き消されるように薄らいでいく。


「だって僕達は結ばれる"運命"なんだから……」


 "運命"。


 どくん、どくん……。


 胸が切なく疼き、心臓が脈打つ。


 息苦しい。

 むくむくと込み上げてくる"なにか"の感情に、胸が押し潰されそうだ。


 見えそうで見えないこの苦しい感情の輪郭、これはなに?
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