この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美

「モ、モモ……」
「来い、走るぞ」
「モ、モモちゃ……っ、ファ、ファっ」
映画でよく聞く罵倒語は、復唱ですら女の子の口から出て来ない。
それが理知的なピュアボーイのお口から、ジェスチャーつきで感情をこめられて出て来たのは、まさしく驚天動地。
「……トリップしてたあんたを、現実に引き戻せない情けない俺でも、だてに波瑠さんを慕ってないんだ。だてに……副総長してないんだよ」
矢継ぎ早に、理解出来ないことが沢山起こりすぎて、どうでもいいことが無性に気になってくる。
「ふ、副総長……でも、言い捨て?」
モモちゃんのお口が少し尖る。
「俺が恐いのは、あんたに公然と催眠術をかけるあんなナツもどきじゃない。怒れる波瑠さんだ。早く電話に出ないと、凄まじいことになるぞ。あのひと、暴れながら本気にここに来るかもしれないぞ!? そうなったら、ナツのいる隣の施設を含め、関連建物すべて大崩壊しちまうぞ!?」
大仰とも言い切れない。
モモちゃんは、あたしが眠っていた長い間、ハル兄の怖さを体験してきた舎弟だ。そのモモちゃんが本気で怯む、ハル兄の怒声――。
"GORAAAAAA!!!"
「そ、そそそそそれは阻止しないと。それより、な、なな、なんでハル兄が突然電話なんて。なんで迷子センター……」
「説明はあと。とにかく急ぐぞ、命が惜しければ!!」
思い出せ、あたしの、あの徒競走で優勝をかけた訓練を!!
追いつめられることにより、鈍ってる愚民の筋肉細胞、目覚めよ!!
さあ、1位を逃した屈辱的な過去を挽回するのだ。
ゴールの先には、電話握りしめた狂暴キングコングが待っている!!
……回れ右したいけど…。
・
・
・
・
「ぐあああ!! なんで迷子センターがこんなにわかりにくいの!? 迷子センターに行くのに迷子になってどうするの!!! どこに助けを求めればいいの!?」
「そっちじゃない、看板の矢印指してるのはこっちだっ!! だからあっちじゃないって!! スタートダッシュがいいのはわかったから、頼むからもっと注意して看板見て走ってくれ!!」
一方的に指定されたのは、ナツの早漏時間。
ナツより早くと、ひたすら命懸け。
それはなによりも、スリリングな3分だった。

