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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美

やはりこの中にはハル兄はおらず、受話器が外れて散乱している電話機具合を見れば、職員皆ハル兄の魔の声からもがこうと必死だったのだろう。
勇者を迎えたように、拍手喝采が起こった室内。
気力を奪われあちこち朽ち果てていたらしい男性スタッフが、涙目で活力を取り戻し、互いを抱き合って本気で歓喜する感動の光景。
……ハル兄、声だけで彼らを絶望の淵に沈めていたのか。
さすがは大魔王。
職員さんが歓喜のあまり、ゴリラみたいな動きをしているよ。
キングコング魔王、声だけで下僕を増殖させたか。
『俺様はシズとサクラに話しがある。それ以外は退室!!』
「「はいっ!!」」
晴れやかな顔で、あたし達を置き去りにして出て行く職員達。
ちょっと待って。
貴方達、お仕事放棄してませんか?
そんなことどうでもいいほどに、ハル兄は恐怖の対象だったのか。
「波瑠さん、サクラです。会話の前に、ちょっと通話機能切り替えをお願いします。そのまま画面のSOSボタンを押して、出て来た十字ボタン、右右上下左上上右下左上にタップして下さい。その後こちらの電話をスピーカーに切り替えます。30秒ほど無音になりますがそのままに」
『了解』
モモちゃんの言葉にハル兄は素直に従ったようで、聞き返しはなく。高IQの早口で語られたあの隠しコマンド的なものはすんなりと、東大卒の頭に入ったようだ。
無論あたしは、なにから始まっていたのかすらわからない。
多分、"上"だったような気がする。あたしは直感だけは鋭いから、きっと正解だろう。
勇者は記憶力がなくても、直感だけで生きていけるものだ。
「始まったのは"右"からだぞ」
そんなあたしのちっぽけな自負を打ち砕いたのは、受付台の上にある大きな電話機を弄っていたモモちゃんで、こちら振り向かずともあたしの思考を読み取るとはこれいかに。

