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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 

 昔から、ハル兄の存在感は強烈で、何度振り回されてきたのかわからない。

 だがあたしが中学高校に進むに従って、強運の持ち主であるハル兄も、医者になるために勉学だの研修だの論文だの時間を費やすことになり、だからこそあたしはハル兄に彼氏の存在を隠し通せていたんだ。

 小学生の段階で彼氏がいたら、隠そうとも見つかったに違いない。

 ハル兄の嗅覚と悪運は天下一品だ。


 それでもあたしの彼氏が消えた時、頼れるのはハル兄しかいないと思うほどに、離れていたハル兄の存在はあたしの心を占めていたのは事実。

 そして今、身体も心も昔以上に親密になってしまって、昔に比べれば離れていた時間はほんのひとときだというのに、それでもたとえ声だけでも、あの存在感を味わってしまうと、薄れたことに酷い喪失感を感じるんだ。


 寒さを感じるのは、熱さを体感しているから――。



「……ハル兄……」


 あたしが蹲ったまま鼻を啜っていると、モモちゃんが薄く笑いながら、身を屈めてあたしの顔を覗き込んでくる。


「あんたが傍にいて欲しいのは、波瑠さんなのか?」


 その眼鏡の奥にある黒い瞳が、吸い込まれそうなほどにゆらりと揺らめく。



「ナツでなく?」



――しーちゃん。



「俺、では……ないだろうけど」


 くっと唇を噛みしめ、モモちゃんは垂らした頭を左右にぶんぶんと揺らし、さらさらとした黒髪があたしの目の前に舞い散った。


「波瑠さん、なのか?」



 再度向けられたその目には、なにかを耐えるような悲痛な光を帯びて。



「あんたは、波瑠さんが好――」




『ああ、そうだ忘れてた』



 再びハル兄の声がしたのは突然のこと。


「切れてなかったの!?」


 あたしとモモちゃんは声を上げて、その場で飛び跳ねた。

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