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可愛いヒモの育て方。
第9章 夢
その名前は、正直予想外だった。だからすぐには反応できなかった。
「……どこで?」
ようやくそれだけ問い返す。
「ここの近く。奥さんと、子供と一緒だったよ」
結婚、してんだ。
私をまっすぐに見てくる彩乃から、つい視線をそらした。マサルの顔を思い浮かべようとしたけれど、やはり浮かばない。無理もなかった。マサルは私が高校生の時、たった数ヶ月付き合っただけの男だった。
デートらしいデートもしたことがない。会うのはいつだってあの男の部屋で、マサルと過ごす時間の大半は、ベッドの中だった。
「……へー」
笑みが零れる。皮肉げな。マサルと、結婚という言葉が、私の中で上手く噛み合わなかった。
「あいつが一生、一人の女性を愛し続けるなんて芸当、できんのかね。自分を知られることも、誰かを知ることも、嫌ってたくせに」
結婚、家庭、子供、奥さん。幸せそうなそういう言葉の数々が、私の中のマサルと結びつかなかった。
彩乃は黙って、私を見つめていた。