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可愛いヒモの育て方。
第13章 口移し
麻人が右手を上げた。私の顔の前に持ってこられて、キスされるのかと思った。狭い浴槽の中、もともと密着してるのもあって、体は勝手に身構えてしまう。
だけどそうではなかった。麻人は私の頬に触れると、そのままむにっとつねってきた。
「なんか、ナマケモノに似てるかも」
「ああ?」
「ほら、動物の、いっつも木にぶら下がって動かないやつ」
「それはわかるけどっ」
今の「ああ?」は、ナマケモノがなんなのかを問うためのものじゃない。なんでいきなり頬をつねられて、とっさに想像しにくいような、ちょっぴりマニアックな動物に喩えられなきゃいけないんだというそっちに対してのツッコミなのに。
私は麻人の手を振り払い、仕返しに、麻人の両頬をつねり返してやった。ぶっさいくになった顔をバカにしてやろうと思ったのに、つねった時の弾力に驚いてしまう。
「やば、めっちゃもち肌! 小学生のほっぺみたい!」
「そっちのがバカにしてますよね、絶対」
むっとしたように目を細め、私の両腕を掴んで自分のほっぺから引き剥がす麻人。するりと洩れてしまったのは本音だし、どちらかというと褒めたのに。