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可愛いヒモの育て方。
第15章 喫茶店

 マサルのせいでまともに恋愛できなくなっちゃったんだから、責任取りなさいとでもいえばいいのか。そんなのあっちにしてみれば知ったこっちゃないことだろうし、実際ただの責任転嫁だ。
 さっきまでの勢いはどこへやら。入り口の前で立ち尽くしたまま動けない。
 やっぱり、帰ろう。そんな考えに至った時だった。

「ーーいらっしゃいませ」

 背後からの声に、飛び上がりそうになった。
 低い、テノール。顔を忘れても、その声だけはなぜか今も鮮明なままだ。だから声の主が誰なのかも、自然と理解した。
 勢いよく振り向いた私の目に、懐かしい顔が映る。高い身長。麻人とは違う、がっしりとした体躯。黒髪は、記憶の中の彼のよりも短かった。白いシャツに、黒いエプロン姿だ。

「お客さんでしょう? 中へどうぞ」
「もう、帰りますので……っ」

 反射的に顔を伏せ、逃げるように駆け出そうとした私の腕を彼の手が掴む。

「なんでだよ? コーヒー飲みに来たんじゃねーのか、おまえは」
「……へ?」

 『客』に対してのものとは違う、砕けた口調に驚いた。
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