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可愛いヒモの育て方。
第19章 キズ
私には信じられなかった。自分の子供にそんな酷いことをするなんて。
だけどすぐに、私の脳裏に先日きいた麻人の母親の金切り声が蘇った。留守電に幾つも残された、息子を呼ぶ悲壮な叫び声。背筋が凍るような、そんな恐怖を感じた。違う、あれが息子に向けられたものだなんて私には思えなかった。
「俺が、怒鳴っちゃったのも悪いんです」
ふいに麻人が口を開いた。
「怒鳴った?」
「今日バイト中に店に電話があって。桐島(きりしま)さん……、でしたっけ? 新しく入った女の子。その子が電話を取ったみたいで、俺に渡してきたんです。俺がいるか聞かれたって言って」
前と一緒だ。私が電話を取った時と。あの時は、麻人はいなかった。ずっと無言続きで、自分の名前を一切名乗らなかったから不審すぎて、麻人の所在については何も話さなかったけれど。ストーカーの線を疑い始めてから、従業員の個人情報についてさらに厳しく取り扱うようになった。
本来なら、君島麻人という名前の子がいるか聞かれてもいるとは言わないだろうし、本人に電話を渡すこともなかっただろうけど、桐島さんは店に入ったばかりなのもあり、そういう事情はわからなかったのだろう。