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可愛いヒモの育て方。
第19章 キズ

 手首。その単語は私の耳に、ずっしりとのしかかってきた。
 以前も言っていた気がする。麻人の母親が、自殺しようとしたことがあったって。だけどそれは、私の部屋で、私のベッドの上でだった。私にはそれが現実味のある話だなんて受けとめられず、自分の母親に照らし合わせて聞いていた。
 あの時も、心は傷んだ。
 でも今は。真っ白い空間と、消毒液やら何やらが混じった病院独特の匂いが、生々しいくらいにリアルに、現実なのだとつきつけてくる。
 私は何も言えず、麻人を見つめることしかできなかった。

「ほんとは、しばらくあんまり家にも帰ってなかったんです。たまに着替え取りにか、寝に帰ってるくらいで。だから、母親の様子最近まったく見てなくて……」

 麻人はぎゅっと、きつく拳を握った。その手が震えている。

「別に、家出とか、そういうんじゃなかったんですよ? ただ、ちょっと顔合わせるの疲れちゃって……」

 片手で顔を覆いながら、そこで言葉が途切れる。

「麻人……?」

 肩に触れると、その手をばしっと払われた。
 麻人がはっとして、顔をあげる。
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