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可愛いヒモの育て方。
第19章 キズ
「すみません……」
麻人は取り繕うように、いつもの笑みを浮かべた。
「なんかさっきから頭痛くて。病院の匂いが苦手なのかな。ちょっと頭冷やしてきますね」
麻人はそう言い残し、長い廊下を歩き出す。
「麻人……っ」
とっさに腕を掴んだ私の手を、今度はさっきよりも強く振り払った。
麻人に、多分初めてされた、完全な拒絶。ショックが大きすぎて、そこに立ち尽くしたまま動けなかった。
「注射で、母親は今眠ってます。手首もたいしたことなかったって。もうほんとに大丈夫なんで、友梨香さんも帰ってください」
声は変わらず静かだけど、麻人とは別人のように冷たかった。温泉旅行の時に聞いた、彼の声が蘇る。
母親と電話していた時の、渇いた相づちと、殺伐とした拒絶。
あの時とおんなじだ。その事実が、私の心を打ちのめす。
薄闇に紛れ、小さくなっていく麻人の背中を呆然と見守ることしかできなかった。
だけど今追わなかったら、本当に麻人は、どこかに行ってしまう気がして。きっと一番踏み込まれたくなかった場所に土足で踏み込んだ私を、一生そばには寄せ付けない気がして。