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可愛いヒモの育て方。
第20章 好転

 麻人が右手を赤ん坊に向かって差し出す。おもちゃを与えられたと思ったのか、小さな指で麻人の指を掴んできゃっきゃとはしゃぎ声をあげた。
 その光景が場の空気を、少しだけ和らげた気がする。私の口元も、自然と緩んだ。
 麻人が私を振り向く。
 私はお姉さんに向かい、深々と頭を下げた。

「麻人くんのバイト先で働いている、船越友梨香といいます。あの、麻人くんとお母さんを……、よろしくお願いします!」

 こんな状況で、何を言っているんだかと自分でも思う。だけど泣いたばかりのぐちゃぐちゃな顔じゃ頭をあげることもできず、九十度でお辞儀をしたまま固まってしまった。
 麻人もお姉さんも、ぽかんとしているかしら。
 このままの格好でずっといるわけにもいかないので、またばっと顔をあげ、今度は麻人に向き直る。

「じゃあ、またね!」
「え……、は?」

 ご家族の方が見えたのなら、私は本当に邪魔者でしかない。
 もう一度お姉さんにも頭を下げ、かけだす。車をきちんと停車し直した旦那が、運転席からおりてくるのが見えた。そちらにも頭をさげ、自分の車に直行する。

「友梨香さん! あとでちゃんと、報告するんで! 本当に、ありがとうございました……!」

 背中に聞こえる、麻人の鼻声。

「待ってる!」

 短く答えた自分の声も酷い鼻声で、笑えてしまった。
 そのまま車に乗り込み、病院をあとにした。
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