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執事はお嫌いですか?
第1章 プロローグ


屋敷の桜が咲く季節―――



「今日から九条斎様の専属執事を勤めさせていただきます。
榊クロと申します」

「はぁ?」


ザザァ――と桜が舞う音で、何か聞き間違いをしたのではないかと、俺は目の前の男の言葉に首を傾げた。


白いタイルの外壁に、鉄格子のアンティーク格調の窓。
室内は個室、広間共に10室は悠々と越える大きな屋敷。
そんな屋敷にお似合いな広々とした庭園には、数十本もなる桜の木々が風にあおられ、激しく淡い桃色の雪を降らしていた。


ひらり――と散った花びらが顔を覗かせる一室で、クロという奴が言った一言に俺は唖然とした。


俺の両親が経営する『九条グループ』は、数年前から金融関係のトップを誇る会社となり、今では普段テレビなどで耳にする企業の多くは大概九条グループと提携していると言われるほど。
そのためか一般の人にも幅広く知られている有名グループだ。

俺はそんな両親の仕事は詳しくは知らないし、家業がどんななんて関係ないと思う。

ただ、今はそんなことどうでもいい。
それより、問題はこの執事と名乗る男の件だ――。

・・・何となく考えられるなら、今朝の珍しい出来事から。





――遡ること朝のこと。

俺は無事、入試と高校入学手続きを終え、気楽な春休みを過ごしていた。
いつも通りの時刻に起き、いつも通りに朝食を食べようとリビングに降りると、必ずいつも居る両親の姿が無かった。

「ん――?」

眠い目を擦ってまばたきをひとつ。
もう一度しっかりと確認。

「・・・・あれ・・・」

この時間帯だと母さんはバタバタと朝食を作り終えている頃だし、父さんはネクタイを締め母の準備を手伝っているはずだ。
なのに、やはり再確認してもいつもの光景がまるでない。

いつもならいるはずなんだが・・・。

俺はモヤモヤとしながらダイニングテーブルにつくと、二つ折りの置手紙が置いてあるのに気がついた。
上面には、“斎へ”と右上がり気味の癖っ字・・・母さんの字が書いてあった。

「手紙・・・」

会社は両親共々で経営しているので忙しいこともあり、置手紙はよくある。
だけどそれは夕飯のことだったり、お菓子の場所だったり、ほんの些細な事だ。
それも置いてあるのは対外夕方、学校から帰宅した頃だ。

朝は今日が初めて――俺は一層不安になる。

早速めくり、内容に目を通す。

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