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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第9章 第二話・伍
数日前は、家で飼っている鶏が今朝生んだのだと籠に盛った産みたての卵を持ってきてくれた。
「村長」
「お民さん、その呼び方は」
言いかけた佐吉に、お民はひっそりと微笑した。
まだこの村に来てまもない頃、佐吉が口を尖らせたことがある。
―村長だなんて他人行儀な呼び方をしないで、佐吉と呼んでくれねえか。
そのときは微笑んで頷いたものだったけれど。
「いいえ、村長は村長です」
お民はきっぱりと言うと、佐吉の眼を真っすぐに見つめた。
「村長、もう、ここにはいらっしゃらないで下さいませんか」
「お民さん、何でそんなことを―」
突然の言葉に、佐吉は蒼褪めていた。
「私と村長のことを、とやかく噂する人がいると聞いています。村長が余所者の私に親切にして下さるだけのおつもりでも、村の人たちはそういう風に理解してはくれません。このままでは悪い噂が広まり、村長と村人たちの間に溝ができてしまうでしょう」
「言いたい奴には言わせておけば良い」
いつもの沈着な佐吉らしからぬ激高した物言いに、お民は微笑を消さぬまま首を振った。
「そんなわけにはゆきません。村長には本当によくして頂きましたけど、これ以上もう、ご厚意に甘えることはできないのです」
この村に身を落ち着けるためには、お民自身、あまり村人に反感を買いたくはない。
「俺がただの親切心だけでお民さんに色々と便宜を図っているのではないとしたら?」
今度は、お民が佐吉の言葉に愕く番だった。
眼を見開いたお民を、佐吉が怖いほど真剣なまなざしで見つめる。
「俺が下心でお民さんに近づいているのだとしたら、お民さんはどうする?」
奇妙な沈黙が落ちる中、お民と佐吉の視線が束の間、絡み合った。
「佐吉さん」
今度は名前で呼ばれ、佐吉が眼をまたたいた。
お民は普段はつとめて隠そうとしている腹部を少し前に突き出して見せた。そうやった姿勢を取ると、少し膨らんできた腹部が目立つ。
「村長」
「お民さん、その呼び方は」
言いかけた佐吉に、お民はひっそりと微笑した。
まだこの村に来てまもない頃、佐吉が口を尖らせたことがある。
―村長だなんて他人行儀な呼び方をしないで、佐吉と呼んでくれねえか。
そのときは微笑んで頷いたものだったけれど。
「いいえ、村長は村長です」
お民はきっぱりと言うと、佐吉の眼を真っすぐに見つめた。
「村長、もう、ここにはいらっしゃらないで下さいませんか」
「お民さん、何でそんなことを―」
突然の言葉に、佐吉は蒼褪めていた。
「私と村長のことを、とやかく噂する人がいると聞いています。村長が余所者の私に親切にして下さるだけのおつもりでも、村の人たちはそういう風に理解してはくれません。このままでは悪い噂が広まり、村長と村人たちの間に溝ができてしまうでしょう」
「言いたい奴には言わせておけば良い」
いつもの沈着な佐吉らしからぬ激高した物言いに、お民は微笑を消さぬまま首を振った。
「そんなわけにはゆきません。村長には本当によくして頂きましたけど、これ以上もう、ご厚意に甘えることはできないのです」
この村に身を落ち着けるためには、お民自身、あまり村人に反感を買いたくはない。
「俺がただの親切心だけでお民さんに色々と便宜を図っているのではないとしたら?」
今度は、お民が佐吉の言葉に愕く番だった。
眼を見開いたお民を、佐吉が怖いほど真剣なまなざしで見つめる。
「俺が下心でお民さんに近づいているのだとしたら、お民さんはどうする?」
奇妙な沈黙が落ちる中、お民と佐吉の視線が束の間、絡み合った。
「佐吉さん」
今度は名前で呼ばれ、佐吉が眼をまたたいた。
お民は普段はつとめて隠そうとしている腹部を少し前に突き出して見せた。そうやった姿勢を取ると、少し膨らんできた腹部が目立つ。