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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第9章 第二話・伍
「お民さん、あんた、まさか―」
佐吉の声が愕きに掠れていた。
お民はにっこりと笑んだ。こんな状況なのに、思わず佐吉が見惚れるほど艶な微笑だ。
「私は、こういう女なんです。だから、私にはあまり拘わり合いにならない方が良いですよ」
「お民さん、その腹の子の父親とはどうなってるんだ?」
ひたむきな眼で問われ、お民は凄艶にも見える微笑を浮かべた。
「この子の父親とは別れました。でも、今でも、私はそのひとのことが大好きなんです」
本当に、この子の父親が源治だったら、どんなにか嬉しいだろう。源治には迷惑な話だろうが、お民はこの子を源治の子だと思って育てようと考えている。
子どもと父親は区別して考えてはいるつもりだが、やはり、お民の身体を欲情のままに蹂躙したあの石澤嘉門の子だと思うのはやり切れなかった。
源治が知れば、怒るに相違ない。でも、誰にも言わず、お民一人の心で思うだけのことなら、源治も許してくれるのではないだろうか。
「そう、か。そういうことだったのか」
佐吉が肩を落とした。あからさまに落胆をの表情を見せる若者に、お民は晴れやかな声音で言った。
「私はこの村を大好きなんですよ。まだ暮らし始めてほんの二ヵ月ですけど、初めてこの村に来たときの螢ヶ池の素晴らしい眺めは忘れられませんもの」
水無月の半ば、螢ヶ池の面を埋め尽くしていた無数の睡蓮。その池を眺めるようにひそやかに建つ御堂。あまたの薄紅色の花が水面に浮かんでいるその様は、まさに極楽浄土もかくやと言わんばかりの光景であった。
「人生二十五年も生きてきて、こんな美しいものを見たのは初めてでした。色んなことがあったけど、まだまだ人生棄てたもんじゃないって、その時思ったんですよ。こんなところに住めたなら、どんなにか幸せだろうなぁって」
それは嘘ではない。
最終的にこの村を隠れ里に選んだのは、その螢ヶ池を見た瞬間のことだった。
「良い村長になって下さい。私もここの村の人たちに一日も早く仲間だと思って貰えるように頑張りますから」
お民の心からの言葉に、佐吉が頷いた。
佐吉の声が愕きに掠れていた。
お民はにっこりと笑んだ。こんな状況なのに、思わず佐吉が見惚れるほど艶な微笑だ。
「私は、こういう女なんです。だから、私にはあまり拘わり合いにならない方が良いですよ」
「お民さん、その腹の子の父親とはどうなってるんだ?」
ひたむきな眼で問われ、お民は凄艶にも見える微笑を浮かべた。
「この子の父親とは別れました。でも、今でも、私はそのひとのことが大好きなんです」
本当に、この子の父親が源治だったら、どんなにか嬉しいだろう。源治には迷惑な話だろうが、お民はこの子を源治の子だと思って育てようと考えている。
子どもと父親は区別して考えてはいるつもりだが、やはり、お民の身体を欲情のままに蹂躙したあの石澤嘉門の子だと思うのはやり切れなかった。
源治が知れば、怒るに相違ない。でも、誰にも言わず、お民一人の心で思うだけのことなら、源治も許してくれるのではないだろうか。
「そう、か。そういうことだったのか」
佐吉が肩を落とした。あからさまに落胆をの表情を見せる若者に、お民は晴れやかな声音で言った。
「私はこの村を大好きなんですよ。まだ暮らし始めてほんの二ヵ月ですけど、初めてこの村に来たときの螢ヶ池の素晴らしい眺めは忘れられませんもの」
水無月の半ば、螢ヶ池の面を埋め尽くしていた無数の睡蓮。その池を眺めるようにひそやかに建つ御堂。あまたの薄紅色の花が水面に浮かんでいるその様は、まさに極楽浄土もかくやと言わんばかりの光景であった。
「人生二十五年も生きてきて、こんな美しいものを見たのは初めてでした。色んなことがあったけど、まだまだ人生棄てたもんじゃないって、その時思ったんですよ。こんなところに住めたなら、どんなにか幸せだろうなぁって」
それは嘘ではない。
最終的にこの村を隠れ里に選んだのは、その螢ヶ池を見た瞬間のことだった。
「良い村長になって下さい。私もここの村の人たちに一日も早く仲間だと思って貰えるように頑張りますから」
お民の心からの言葉に、佐吉が頷いた。