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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第9章 第二話・伍
 炎暑の夏が過ぎ、九月に入って、秋の気配が朝晩には濃く漂うようになった。
 お民の腹の赤児は順調に育ち、七ヵ月めに入っている。この時期になると、もう帯の上から見ても、妊娠しているとはっきりと判るようになった。そうなると、口さがない村人たちはまた、寄ると触ると、その話で持ち切りになる。
 お民が江戸にいられなくなって、女一人でこんな鄙びた村に来たのも、その腹の子せいだと真しやかに囁かれた。
 どこぞのお店に女中奉公していたところ、お民の美貌に眼をつけた主人とわりない仲になりお手つきとなったのまでは良かったが、結局、身籠もったことで追い出されたとか、逆に、人妻でありながら、亭主に言えぬ男と道ならぬ恋に走り、子を宿して家を飛び出してきたとか云々。
 とにかく、お民の存在は、それまで話題や醜聞らしい話のなかった平和な村人たちにとっては恰好の噂話の種になったらしい。
 いずれも、お民が男をその色香で血迷わせた稀代の妖婦・悪女になっているところが面白い―と、当人のお民は半ば呆れ、半ば憤慨しながら聞いていた。
 また、小さな村であれば、そのような噂話を好んでわざわざ当人に届けにゆくお節介者、混ぜっ返し者もいるようで。
 お喋りが三度の飯より好きなのは何もこの村の女たちだけでなく、徳平店の女房たちも同じではあったけれど、この村の女のように不必要な詮索はあまりせず、他人を傷つけるような話はあまり出なかった。
 裏店では人の出入りも烈しく、いかにも訳ありといった感じの家族や見知らぬ者が引っ越してきたり、馴染みが晴れて表店に家を構えて出てゆくのも珍しくはなかった。
 それでも、同じ店子同士となれば互いに助け合ったし、脛に疵持つ同士で、互いに触れられたくない過去には触れず、助け合える範囲で助け合い、晴れて出世して出てゆく者には、ほんの少しの羨望と惜しみない祝福を贈って見送ったものだった。
 この村の人の気質と江戸っ子堅気は随分と違う。しかし、佐吉にも言ったように、お民はこの村が嫌いではない。
 できれば、この村に身を落ち着け、子どもを生んで育てたかった。もしかしたら予想外に刻を要するかもしれないが、いずれは判り合える日も来るだろう。何より、お民自身が心に垣根を作らず人々に溶け込む努力を惜しまなければ、いつかは通じるはずだ。
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