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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第9章 第二話・伍
 ―それは、これまで生きてきて培ったものから学んだことだった。
 お民は日中は殆ど外に出ない。そういった村人の好奇と侮蔑の入り混じった視線が疎ましかったせいもある。また、仕立物もできぬ身では、草鞋を編むことくらいしかできず、生活の糧を得るために内職をする必要があったのだ。
 草鞋だとて最初は編めなかったのだが、これは村長の佐吉に教わり、何とか一人で編めるようになった。
 ひと月に一度、江戸から履物屋がやってくる。村の一件一件を回り、各家で作った草鞋を買い取ってゆくのだ。たいした銭にはならなかったが、それでも、わずかでも蓄えておかねばならない。
 今はまだ、最初の良人兵助が残してくれた金や、造花を作る内職で得たお金がある。まとまって持ってきた金を少しずつ大切に使っていたけれど、その中、蓄えも底をつくだろう。
 江戸を出るに当たって、源治と所帯を持ってから得た金―手内職で自分が得た収入以外は―すべて徳平店に置いてきた。持ち出したのは、源治が今年の正月、初めて買ってくれた簪一つだけだ。本当はこれも置いてこようかと思ったのだけれど、想い出として貰うことにした。
 日中、まだ暑い時間は家の中でひたすら草鞋を編み、朝方、まだ早い時分に散歩にゆく。
 それが、お民の日課となった。
 江戸から遠く離れたこの村で、お民は自分らしく生きようと覚束ない脚取りで再び歩き出したのである。いつまでもくよくよしないで、前を見つめて歩こう。この頃になって漸く持ち前の気丈さを取り戻したのだ。
 日毎に育ちゆく新しい生命の逞しさにも励まされた。不思議なもので、挫けそうなときには必ず腹の子がトントンと腹を蹴ってくる。しかも、胎動は日増しに強くなる。それが何か我が子からの無言の励ましのような気がして、お民はまだ生まれてもおらぬ子に背を押される想いだった。
 母親であることを、これほど実感したことはいまだかつてなかった。
 九月の上旬のある日のことである。
 その早朝、お民は一人で散歩に出かけた。
 朝の清涼な空気が辺りに立ち込めている。夜明け前の蒼さがそこここに残る中、お民は前に突き出た腹を庇うように、ゆっくりと歩いた。
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