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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第9章 第二話・伍
履物屋の伊佐蔵は、月に一度、村の女たちの編んだ草鞋を買い取りにくる江戸の商人だ。小さな店を営んでいると聞き、奉公人の数も少なく、主人自らがこうしてわざわざ脚を運んでくるのだと聞いたことがある。
まさか、あの男から源治に知れるとは思いもしなかった。大体、伊佐蔵と源治が知り合いであったことも、お民の与り知らぬことであった。
「仕事帰りにたまに寄る縄暖簾で顔馴染みになってな。お前には話したことはなかったが、それがかえって幸いしたぜ」
と、源治は悪びれた風もなく屈託なく笑う。確かにそうだろう。源治と伊佐蔵が知り合いであると判っていれば、お民は源治がここに来る前に、この村から出ていっていたはずだ。
「お前、今、俺がここに来る前に、とっとと逃げ出しちまえば良かったって思ってるだろう」
指摘され、お民は笑った。
「どうやら図星のようだな」
源治の声も笑いを含んでいる。
「どれ、顔を見てみよう」
源治がお民の身体に両手をかけ、くるりと回し自分の方へと向かせた。
「お前は考えてることが全部、顔に出ちまう。嘘のつけねえ質の女なんだ。子どもみてえなところは、ほんとに、変わっちゃいねえな」
揶揄するように言われ。
お民は頬を膨らませた。
「まあ、酷い。久しぶりに逢ったっていうのに、お前さんの口の悪さも相変わらずですね」
こうして軽口を交わしていると、すべてが嘘、悪い夢のような気がする。石澤嘉門との拘わりも、嘉門の子を身籠もり源治の許を飛び出してきてしまったことも。
そう、すべてがめざめて終わる夢ならば、どんなにか良いだろう。
源治の顔も、あれほど逢いたいと願った男の顔が眼の前にある。本当に夢を見ているようだと、お民は茫然と思った。
「また、きれいになったな」
いきなり直截に賞められ、お民は頬を染めた。
「いやだ、何を言うかと思ったら、今度はお世辞ですか」
「馬鹿言え。手前の女房に世辞まで言って、今更口説いて何になる。俺はお前と一緒で嘘なんかつけねえ。上に何とかがつくほど正直なのはお互いさまだよ」
まさか、あの男から源治に知れるとは思いもしなかった。大体、伊佐蔵と源治が知り合いであったことも、お民の与り知らぬことであった。
「仕事帰りにたまに寄る縄暖簾で顔馴染みになってな。お前には話したことはなかったが、それがかえって幸いしたぜ」
と、源治は悪びれた風もなく屈託なく笑う。確かにそうだろう。源治と伊佐蔵が知り合いであると判っていれば、お民は源治がここに来る前に、この村から出ていっていたはずだ。
「お前、今、俺がここに来る前に、とっとと逃げ出しちまえば良かったって思ってるだろう」
指摘され、お民は笑った。
「どうやら図星のようだな」
源治の声も笑いを含んでいる。
「どれ、顔を見てみよう」
源治がお民の身体に両手をかけ、くるりと回し自分の方へと向かせた。
「お前は考えてることが全部、顔に出ちまう。嘘のつけねえ質の女なんだ。子どもみてえなところは、ほんとに、変わっちゃいねえな」
揶揄するように言われ。
お民は頬を膨らませた。
「まあ、酷い。久しぶりに逢ったっていうのに、お前さんの口の悪さも相変わらずですね」
こうして軽口を交わしていると、すべてが嘘、悪い夢のような気がする。石澤嘉門との拘わりも、嘉門の子を身籠もり源治の許を飛び出してきてしまったことも。
そう、すべてがめざめて終わる夢ならば、どんなにか良いだろう。
源治の顔も、あれほど逢いたいと願った男の顔が眼の前にある。本当に夢を見ているようだと、お民は茫然と思った。
「また、きれいになったな」
いきなり直截に賞められ、お民は頬を染めた。
「いやだ、何を言うかと思ったら、今度はお世辞ですか」
「馬鹿言え。手前の女房に世辞まで言って、今更口説いて何になる。俺はお前と一緒で嘘なんかつけねえ。上に何とかがつくほど正直なのはお互いさまだよ」