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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 
 


「俺が餓鬼を引きつける。


だから、サク――っ!!


姫を……必ず姫を――……」




 両手を拡げて襲いかかる餓鬼の生き餌と化し、シュウは生きたままこちらに向かってくる餓鬼の群れの中に、突進していったのだった。



「きぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 襲いかかる餓鬼の狂喜のような声に負けじと、シュウが叫んだ。



「サク――っ、

早く行けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



 そしてシュウの体は――



「う、ぐ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 夥(おびただ)しい餓鬼にまみれて見えなくなった。




「シュウ――っ!!」





 サクがきっと穴を通り始めた時から、餓鬼は近づいていたのだろう。

 わざと大きな声を出して、餓鬼の注意を引いて。



――姫を……必ず姫を――……。



 サクは泣きながら、握った拳に力を込めた。


 そして壁の外に出た。




「サク……」


 事情を察したユウナが泣いていた。



「うああああああああっ!!」


 サクは赤い月に向けて一度吼え、そしてユウナに言った。




「行きましょう、姫様。

シュウから貰った命、大切にしましょう」



 サクは涙を零しながら、頷くユウナを抱き……ひたすら駆けた。



――ハン様、サクこそが隊長にふさわしい。



 凶々しい赤い月の光に照らされながら。


――なんなら無理矢理でも姫を奪って、駆け落ちでもなんでもしてみろ!! 



 シュウ。あれは……お前の心だったんだな。

 お前も……そうしたいほどに、姫様に辛い恋……してたのか。



――本当は……酒でも酌み交わして、もっとお前と……こんな話をしたかったなっ!!



 今まで……見守って応援して下さり、ありがとうございました!!

 先輩――っ!!
 


 サクの唇が悲しみに戦慄いた。



 餓鬼は……追ってこなかった。

 ……シュウの命と引き替えに。

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