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吼える月
第36章 幻惑


「え? 姫様、イタ公に会ったんですか?」

 サクはユウナから、この玄武刀がどこから湧き出たのかを聞いて、驚いた。

 サクを助けるんだという意気込みがユウナから消えた途端、刀はまたもや彼女の両手で引き摺らねばならない鉛の塊と化したが、サクは赤い柄の刀同等に、片手で軽々と扱っている。

 そしてサクもまた、この刀は武神将の儀式の最中に初めて玄武の人型を見た際、玄武が手にしていた刀だと悟った。

 その見事な彫り物だけではない、空気をきんと鋭く震わせるような圧倒的な存在感は、シバが扱う青龍刀にも似たもので、模造か本物かはすぐにわかる。

 そしてなにより、刀から懐かしい感じがあるのだ。

 まるで自分に語りかけている白イタチのような、親近感。

 同時に、玄武の生の核に触れた気がして、いかに気さくなサクとはいえども、この刀を前にすると神獣に対する畏敬の念が強くなる。
 
 そんな神獣をイタチの姿にしてしまって、本当によかったのだろうかとも、今さらながら、僅かにだが思ってしまうほどに。
 
「そうなの! どこかわからない……ここではない場所から出してくれたんだけれど、それでサクを助けろって。その時は首のイタ公ちゃんも消えていて。あたし、イタ公ちゃんはつるつるの亀かイタチ姿しか知らなかったから、〝光輝く者〟以上のあの麗しいお姿に、感動してしまったの」

 ユウナの興奮に、サクは苦々しい表情を見せる。

「イタ公……、あれだけ姫様の前では人型をとるなって言ったのに、俺が離れた隙に人型を姫様に見せるなって! しかも自分が危ねぇ時に、なに格好つけて登場するんだよ!」

 サクが指でつんつんと、目を閉じたままのイタチをつつくが、イタチからは反応がない。

「しかし……、場が違えば抑えられていた神獣の力が発揮出来るのだとすれば、ラックーもそうなのか?」

『ばへぇ?』

 突然話を振られたラクダは、首を傾げる。
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