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吼える月
第36章 幻惑
 
「意識もねぇ白イタチが人型で出現出来るほどだ。力を奪われたといえ、ラックーが本当の朱雀ならば、その世界では本来の姿に戻れるんじゃ? イタ公がしたのと逆に、ここから別の世界を繋げられれば、ラックーは朱雀として消えた記憶くらいは取り戻せるかも知れねぇぞ」

「でもサク……。問題は、玄武様がしたことを、誰が出来るかよ。サク、出来る?」

 するとサクはがしがしと頭を掻いて、頭を横に振った。

「もっとイタ公の力が強くなければ、空間に裂け目など作れねぇです。少なくともこの緋陵では」

「そうよね。玄武様、ラックーを連れてまたこちらに戻してくれればよかったのに。ラックーちゃんの力が戻ったら、出来るの?」

『玄武が出来るものは、我も出来る。然れど、この倭陵は我ら四神獣の力により、他世界が安易に繋がらぬようにしておるが……』

「なんだその、他世界って」

『ひとが創り出す幻の世界、ひと以外の者が創り出す虚構の世界、魔の世界、天空の世界……。さらには星の数を超えるほどの時間軸で動き、我ら四神獣以外の神の御使いが守護せし、人間が生きる別の世界』

 それは倭陵大陸以外の世界があると、言っているのと同じだ。
 異邦人などと言う言葉では片付かない、人智を越えた世界の存在だ。

「頭が痛くなる話ね。だったら四神獣の主である女神ジョウガ以外にも男神や女神がいて、四神獣以外の守護者がいるということ?」

 ユウナの問いに、ラクダは頷いた。

『然り。我ら四神獣に優劣がないのは、女神ジョウガの意向。他がどうであるかは、仕える主の意思によって決まる。我らは女神ジョウガの意向を受けて、この大陸の守護を担当し、魔を滅して他の世界と倭陵を繋げないようにしておる』

「でも、姫様が飛ばされてイタ公が現れたのは、この世界ではないんだろう?」

『ふむ……。今、四神獣は各々の力が発揮出来なくなっておる。拮抗で保っていた守護結界が弱まっておるのなら、我らが封じていた魔も動き出す』

「それって、たとえばどんなものだよ」

『主たるものは、四凶(しきょう)』
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