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大蛇
第9章 疑惑
                      *

アンヌの恋人であるマリー・ルナールは、アンヌと共に久方振りに祖国の土を踏んだ。

ルナールの胸がこれほど弾むのも、初恋の時以来だった。

新しい恋人のアンヌは、新緑のように瑞々しく、小鹿のように可愛らしかった。

アンヌはルロイの勤務中、ルナールの家にこっそりやって来た。

彼女たちの人目を忍んだ逢瀬は続き、蕾のようだったアンヌは、少しずつ花弁を開いていった。

「おっ、アンヌちゃん久しぶり」

ルナールの家からの帰り道、アンヌはジャンに出会った。

「何か、前より色っぽくなったね」

アンヌは彼の言葉に、面映ゆくなる。

色っぽくなった?この私が?

きっと、マリーさんのお蔭だわ。

「ありがとうございます。いつも夫がお世話になっております」

アンヌは、すらすらとそんな人妻らしいセリフが出たことに自分で驚いた。

「いやいや、世話になっているのはこっちだよ。じゃあ、またね」

ジャンは満面の笑みを浮かべ、市場の雑踏に消えて行った。

アンヌは頬を染め、ぼんやりと官能のひと時を思い出していた。

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