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五十嵐さくらの憂鬱。
第11章 …11
「見てよさくら!」

教室に弾丸のように入り込み
散弾銃のように騒ぎながら
小春がさくらに駆け寄った。

「お、おはよ。どしたの?」
「これよこれ!これ!入手したのよ!」

興奮気味の小春は
荷物をバタバタと散らかして座る。
キンコンとチャイムが鳴り
教授がビシバシという音を響かせるかのように
教室に入ってきた。

「これよこれ、見て!」

小春に言われて、さくらは身を寄せる。
小春が携帯をテキパキと操作して
ある動画を再生する。

画像は粗く、ノイズとブレがすごい。
白い着物に黒い袴の人物が並んでいるのが見える。
なにやら礼をして座ったり立ったりする。

「なに、これ?」
「まぁ見てなって」

小声でイキイキと小春は画面を凝視していた。
よくわからないが、さくらもみならう。

そのうちに立ち上がった手前の1人が
手を高く掲げた。

「あ…」
「やっとわかったか」

弓だ。
和弓。
初めてまじまじとさくらは見た。

きりりと弦を絞り
たっぷりと時間をかけて矢が射られた。
と同時にぱん、という音。
周りが何やら掛け声をかけた。

その次もその次も、ぱん、という音。
最後の1本を射る姿がズームされる。

「え、これ、まさか…」
「そう、そのまさか!」
「あれ!? これ、高校ん時の樹じゃん?」

突如割り込んで来た軽い感じの声に
さくらも小春も息を丸々と飲み込んだ。

後ろを見ると、可愛らしい顔立ちの青年が
ニコニコしながら2人を面白そうに見ていた。
さくらは見たことがあるその顔にはっとする。

「あ…」
「うわ、斎藤夏月!?」

小春は驚き、名前を呼ばれた夏月もおや、という顔をした。

「あれ? 俺の名前知ってるの? どっかで会ったっけ?」

猫のような瞳をパチクリさせて
夏月は首を傾げた。

「有名ですよっ!」

小春は興奮する。
隣座っていい?という夏月の申し出に
さくらではなく小春がどーぞどーぞと手ぐすね引く。

「えっと…はるちゃん…」
「全くさくらったら知らないの?
斎藤夏月と言えば
樹先輩に並ぶか、むしろ隠れファンの数で言えば上回るって噂だよ!」
「お褒めの言葉ありがとうっ!」

夏月はひょいとさくらの隣に並ぶ。
途端にさくらは緊張して固まった。

「あれ、そんな固まんないでよさくらちゃん!」

夏月はさくらの肩に手を回す。
そのまま小春の携帯を覗き込む。
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