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五十嵐さくらの憂鬱。
第11章 …11
そろそろだと夏月は思った。
そろそろ、樹が来る頃だ。
樹が夏月の行動を把握してればの話だが。

それでもし、夏月に飛びかかってこようものなら
絶対にさくらを食ってやろうと考えていた。

ーーーきたーーー

さくらの舌を絡め
たっぷり味わう。

「さくら!」

恐ろしい勢いでドアが開けられ
キスされたままのさくらが
そちらに視線を向ける。

ーーー樹先輩!ーーー

必死の形相とは、まさにこのことだ。
眉根を寄せて、走ったのだろう、
額にうっすらと汗をかいていた。

「さくら、大丈夫か!」

樹が踏み出すと
それまで絶対に離れなかった夏月がぱっとさくらから離れた。
樹は夏月にはめもくれず
一目散にさくらにかけよって抱きしめた。

「大丈夫か?
変なことされてないか!?」
「せんぱ……」

苦しいほどに抱きしめられて
さくらは息ができなくてもがいた。
そしてほっとすると樹にしがみつく。

「夏月、てめぇなにしやがった!」

さくらの頭を撫でながら
樹が恐ろしい声を出す。
もともと低い声は
大声を出すとかすれる。

「んー!
ちょっと、つまみ食い」

夏月は悪びれる風もなく
ニヤニヤしながら立っていた。

「つまみ食いじゃないだろうが!
2度とさくらに手を出すな!
次やったら、2度と勃たないようにしてやる」

やだこわーい、なんてくすくす笑いながら
夏月は満足そうだ。

「ったく…」

夏月は今度こそ、微笑ましいという目で樹とさくらを見た。

「このシチュエーション、飽きるほど経験してるけど、
樹がそうやって、女の子の方に駆け寄ったの初めてだね」
「あ、飽きるほど!?」
「だからなんだよ」

さくらは驚き、樹はうんざりした顔をした。

「大切にしてるんだなって思ってさ!」
「だからなんだよ」

夏月はほっとしたように微笑んだ。

「んーん、安心した」
「どうゆう意味だよ」

それには答えず、夏月はニヤニヤしながら入り口に近づく。

「じゃ、後はお2人仲良くねっ!」

退散して、夏月はほっとして力が抜けた。

「よかった…やっと心から好きになれる人見つけたんだね」

夏月のつぶやきは
6月の風に流されて誰にも届かなかった。
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