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五十嵐さくらの憂鬱。
第12章 …12
「あいつ、なんなんだ…」

去って行った夏月に2人して呆然とした。
樹には、なんとなく夏月の行動の意味が分からなくもない。
夏月は、樹に女ができると
必ずと言っていいほど横恋慕する。
しかも、樹に分かる様に。

樹は今まで、夏月に殴りかかっていた。
その樹を見るたびに
夏月がちょっとがっかりするのも知っていた。

本物の彼女かどうか
色魔の夏月なりに確認しているのだろうが
いかんせん、やり方が過激すぎる。

ため息を吐いた後に
今度はさくらの頭に
触れる程度のゲンコツを落とした。

「え!?」
「…ったく!」

樹はさくらの鼻を押し上げる。

「あのなぁ、知らない男にのこのこついて行くなって
小学生でもわかるだろ?」
「知らないわけじゃないし…先輩の友達だったから…
「だからって、あんなバカについて行く奴がいるかよ!」

樹は今度はさくらの両頬をつまんで引っ張った。
地味に痛い。

「だいたい、俺が飽きるわけないだろ!」
「それは、わかんないじゃないですか…」

今度は頬をぎゅっと押し寄せた。

「もっと、満足してもらいたかったんです…!」

さくらの声に
樹は鼻を鳴らす。
さくらは前からそうだ。
好きな人のためになら
嫌なことでも受け入れようとする。

夏月に嫌なことをされに
わざわざついて行ったのは腹が立つが
言い換えれば
樹のことを好きだとも言える。

「だからって夏月についていって
レクチャーされようとするなんて
言語道断だ!」

光輝に満足してもらいたいだろ、と言って半ばさくらを脅し、
身体をいたぶっていた張本人の口から出る言葉とは思えなくて
さすがのさくらも呆れた。

「…先輩だって…彼氏いるのに
私にずっと意地悪してたじゃないですか…」

樹は口答えしないの、とさくらのほっぺをつまんだ。

「それとこれは別だ。
俺はいいけど、他の男はダメに決まってる」
「な…」

あまりにも堂々と理不尽なことを言い切ったので
さくらは呆然とした。
そしてふと、思う。

「…先輩、ヤキモチ…やいてないですよね…?」

樹はにっこりと微笑んで
さくらに口づけをした。
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