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五十嵐さくらの憂鬱。
第12章 …12
「んっ…」

甘く、いたわるようなキス。
つい、気持ち良くて吐息が漏れた。

樹の舌がさくらの口の中を
丹念に舐める。

「舌出して」
「え?」
「早く」

さくらが舌を出すと
それに吸いついて絡める。

「もっと舌出して」

言われるがまま出すと
樹の口内に持って行かれ
たっぷりの唾液で和える。

「ん…や…」

あまりにも刺激的なキスに
さくらは身体が火照って来る。
嫌がっても樹が辞めることはない。
歯茎から歯の間
上顎、舌の裏まで丁寧に舐める。

「嫌がるな。消毒だ…」

これでもかというほどに
さくらの口内を綺麗にし
樹の唾液で満たしていく。

「キス以外で夏月になにされた?」
「特には…ちょっと、服の上から触らされたくらいです…」

樹はさくらの手を取ると
パーカーの下に着たシャツのさらに下
腰周りの素肌に触れさせた。
それだけで
さくらの心臓はとまりそうになる。

さらさらだがしっとりとした感触の肌に
ほどよく引き締まった筋肉。
男の人というものを
真近に突きつけられたような
しびれるような感覚。

「夏月のなんかもう2度と触るなよ。
さくらは俺だけ感じてろ」

そう言うとさくらの口に唾液を流し込む。
樹の唾液を味わうと
さくらの身体はさらに火照った。

「ん…っはっ…」
「返事は?」

はい、と小さく声に出すと
言えたご褒美をくれる。

「さくらが俺に頑張らないといけないことなんて何もない。
しいて言えば、他のやつに目移りするな、くらいだよ」
「でも…」

ーーーこんなに良くしてくれてるのに
私なにもできてないーーー

もっと気持ち良くなってもらいたい。
そして、もっと樹を感じたい。
さくらはそう思い、そう思ったことに自分で驚いた。

「…でも、もっと先輩を感じていたくて…」

光輝の時とは明らかに違う。
あの頃は自分が全て悪くて
少しでも頑張れば光輝に届くと信じていたし
苦しかった。
光輝を気持ち良くしたいとは思わなかったし
自分を変えようとすることでいっぱいいっぱいだった。

「…なら、教えてやるから。
俺の気持ちがいいとこも、して欲しいことも
全部、俺を教える。
全部、さくらにあげる」

樹は、そのままでいいと言ってくれる。
頑張らなくてもいいと。
頑張りたいなら、頑張り方を教えてくれると。

さくらはこれ以上ないほど胸が苦しくなった。
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