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五十嵐さくらの憂鬱。
第16章 …16
「…ただいま、戻りました」

さくらが帰ってきたのは
樹の予想よりもかなり早い時間。

「早かったな」
「…ごめんなさい、急に」

その憂鬱そうな顔に
何があったのか今すぐにでも聞き出したい気持ちを抑えて
樹はさくらを招き入れると
温かいココアを渡した。

とっくに夏は過ぎ
秋の風が吹いていた。

「…あっつ…!」

さくらはココアを勢い良く飲んだのか
熱くて目元に涙を浮かべた。
その様子に樹はぷ、と吹き出す。
このドジっぷりに天然具合が可愛らしくて
樹はさくらの額にキスをした。

「ゆっくり飲みなさい」

そう言って本当にキスをすると
ココアで温まった舌が温かくてとろけそうになった。
相変わらずさくらのキスはたどたどしい。

唇を名残惜しく離すと
切ない顔をした彼女と目が合った。

この顔はずるい。
樹はいつもそう思う。
女子の切ない顔はずるい。
特にさくらの表情は物憂げで
かまいたくなってしまうのだった。

何かあった?
その言葉を何度も飲み込む。
その代わりに
何度もさくらに口づけをした。

そのうちに、さくらの呼吸が
熱を帯びて来る。
とろんとした目つきに、頬を少し赤くして
それだけで樹はそそられた。

「……さくら…」

無意識に彼女を求めようとした。
頭に手が伸び、樹から逃げられないように支える。
さんざん味を覚えさせただけあって
キスをするごとに
さくらの預けてくる体重が増えてくる。

ーーーたぶん、もう立てないだろうーーー

舌先を絡め、ゆっくりと動かす。
舌を出させて、味わうように舐めた。

「美味しい、さくら」

そう言うと、あからさまに恥ずかしがって顔を赤くした。
もうつきあって半年近くなるのに
今だに反応が初々しい。
その割りには、ベッドの上では大胆な時もあり
樹はまだまだ深くさくらを知りたいと思う。

そしてそれはさくらも同じで
いつも優しくてなんでもしてくれる彼が
好きという言葉では言い表せない。

ーーーこのまま、繋がってしまいたいーーー

愛おしすぎて、樹はタイトに抱きしめた。

夕飯を食べた後も
課題をしている最中も
さくらはどうやら気もそぞろらしく
物憂げな横顔が印象に残った。

ーーー自分から、話すだろうーーー

急いても仕方が無い。
樹はそう思って
疲れたのか、机で睡魔と戦いはじめたさくらを
ベッドへといざなった。
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