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五十嵐さくらの憂鬱。
第16章 …16
「…行けよ、青木」

翔平が篤斗を見た。
チラリと樹を見ると、
眉根を寄せてなんとも言えない顔をしている。

「行けよ。部活、休んでいいから」

その声に弾かれたように、
翔平がさくらに向き直ってその手を握った。

「…行こう、さくら!」
「え!? ちょ、待っ…」

翔平はさくらの手を握ったまま、走り出す。
一瞬、慌てた樹を、篤斗が止めた。

「…斎藤、なんのつもりだよ」

樹の空気がピリリと張り詰める。
それに、さすが鬼デビルだけあって、
篤斗は全くひるまない。

「いいだろ、可愛い後輩の後押しくらい」

それに、と篤斗は続けた。

「卒業後、学校に来るわけじゃないんだから
お前がずっとは見てられないんだぞ。
すこしでも、不安要素は減らしておけ…。
お前も大変だな、いつまでたっても」

ものすごく一理あって、
樹は唸った。

「…お前は、誰の味方なんだよ」
「さてね。
後輩の恋も、もちろん応援したい。
でも、やっと落ち着いた友達の恋は、もっと応援したい。
でもって、もてすぎるお前に痛い目もみてもらいたい」
「なんだよ、それ」

樹はアホらしくなって、脱力した。

「…いい彼女じゃないか。稲田にしては」

大切にしろよ。
そう言って、篤斗は手を軽く上げると
その場から去って行った。

残された樹は、さくらの課題に使う参考文献を抱えて
大きく息を吐いた。
どうしようもない怒りともなんとも言えない感情があって
仕方がなくその場を後にした。
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