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五十嵐さくらの憂鬱。
第5章 …5
最近、五十嵐さくらの様子がおかしい。
翔平は見かけるたびに
じっとりと見てしまう。

怪しい先輩と美術部の部室で話しているのを見たとき
これはまずいと警鐘が心の中で鳴り響いた。

2人で居るところを目撃してから
翔平は、さくらを注意して見るようにしている。
それに全く気づいていないらしく
食堂で1人小春を待っている姿から
なんとも言えない雰囲気を醸し出している。

「おい、さくら!」

こっそり近づいて
椅子をガタガタと揺らすと
ぎゃ、というなんともマヌケな声を出して
机に必死にしがみつく。

その姿が可愛くて、
翔平はついつい長い髪の毛を持ち上げた。

「あれ? これどうした?」

耳寄りのうなじに
赤い痕がある。
それをぽちっと押すと
またもやマヌケな悲鳴を出す。

「や、やめてよ!」
「怒るなよ!」
「翔平のが怒るなし!」

ぎゃんぎゃん言い合いをしたが
さくらが疲れて終わりとなった。

「これねー…コテで火傷しちゃったの」
「ドジにもほどがあるだろ!」

翔平はゲラゲラ笑い
「笑いすぎ」と口を尖らせて
組んだ腕に顎を乗せて翔平をにらみつけたあと
いー!っと顔をしかめた。

さくらのドジっぷり伝説を
この1年間で翔平はたっぷり見てきている。
こんなに面白い生き物はいないのだが
いかんせん、科が違うためあまりかまっていられない。

「あれから、あの先輩とは大丈夫かよ?」

さくらの笑顔が一瞬ひきつるが
大丈夫、という返答。

「大丈夫じゃない顔してるだろうが!」

とっさにさくらの顔を片手でつまむ。

「ばか! やめてよ!」

さくらがもごもごともがくのを楽しんでから
手をどける。

「ほんとに大丈夫なんだけどね
ただ、何考えてるかわかんないんだよね…」
「?」
「なんで、そこまで私にこだわるのかわかんなくて」

さくらは口を尖らせる。

「気になるんじゃないの?
いいじゃん、相談のってくれるんだからさ」
「…そうだよね」

彼女の背中をどんと叩いて
翔平はニコッと笑う。

「気にしすぎるな!
さくららしくないぞ!」
「うん、ありがと」

さくらと別れてから、翔平はふと廊下で立ち止まった。

「そういえば前もあそこに赤い痣あったな」

腕組みをして考える。

「あの先輩、さくらのこと、好き…?」

しばらく考えてから
まさかな、とかたをすくめて、また歩き出した。
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