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五十嵐さくらの憂鬱。
第6章 …6
あんなに面白いオモチャはない、と樹は思っていた。
初めのうちは。
彼氏とうまくいかなくて
樹に相談をしてくる女は今までも多くいたし
その女を屈服させることは
朝ごはんを作るよりも簡単だった。

どの女もすぐに樹に満たされ
気持ちが彼氏から離れて行った。
彼氏に対する罪悪感というものがみんな無かった。
相手が悪いと決めつけ
快楽に溺れる女ーーー。
そんな女を山ほど見てきたし
抱いてきた。

それはそれで、初めの頃は楽しかった。

「もう、飽きたな…」
「え? なにが?」

心の声だったのだが、
つい声に出ていたらしい。
はっとして樹は、隣に座る派手な女を見た。

取り巻きというのか、
樹の周りには人が集まってくる。
特にこの真綾という女はしつこい。
まるで、彼女のように樹につきまとってくる。
1度、抱いたのが悪かったのだ。

感情などないのだが
相手が勘違いすることは多い。
真綾も典型的なその類いだった。

「いや、別に…」
「なあに、言ってよ」

うるさいな、とくっついてくる真綾から身体をそらせると
視界に入ってきた女がいた。

いつも食堂に1人で来ては、
ショートカットの友達を待つ女の子。
きれいな和風の顔立ちはまだ幼く
いまどきつけまつげもつけていない。

ナチュラルメイクに長い髪の毛。
服装はシンプル。
身長がやや高めなせいか
大人っぽく見える。

気取らない、目を引くほどでもないが
素材が美人だ。
そしてなによりも、メランコリックな雰囲気。
どこか別の空間にいるのではないかと思うかのような。
どことなくクラシックでアンニュイな雰囲気が気になった。

シンプルなのは悪くない。
樹はふと気になって
その女の子を見かけるたびに
視線で追うようになっていた。

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