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~ 愛しい人へ ~
第1章 ~ prologue ~
「ねえ、千帆。
もう、大丈夫?」



千帆は、コクリと頷いた。



「七瀬さん……もう、大丈夫です。」



「そ…っか。」



七瀬は、千帆に優しく微笑んだ。



「もう、会うこともないね。」



七瀬の笑顔が少し歪んだ。



「はい、七瀬さん。」



「千帆は、幸せだった?」



「……正直、わからないです。
でも、後悔はしていません。
好きな気持ちは、
止められなかったんですから。」



七瀬は、大きく頷いて、



「そろそろ、戻ろうか。」



千帆は、笑顔で七瀬を見つめた。



七瀬は、目を閉じる。



そっと目を開けると、



足元には、砂浜が広がる。
目を開けると、海が広がり、水平線が見える。



七瀬のすぐそばに、高さが2mほどの黄色の木枠が現れる。



「千帆……。」



七瀬は、声を詰まらせながら、その名を呼んだ。



木枠の向こう側に、千帆が現れた。



「今までありがとう……。」



七瀬の目からは、涙が零れた。



千帆は、首を横に振った。



七瀬は、両手を胸の高さまで上げた。
千帆も同じように、両手を胸の高さまで上げた。



黄色の木枠にはなにもなかった。
だが、まるで硝子がはめ込んであるように
七瀬と千帆がピタリとその場で合わさった。



七瀬は、目を閉じた。
涙が、こぼれて、こぼれて。
唇を噛みしめた。
そして……



「さよなら、愛しい千帆……。」



とささやいた。



七瀬が目を開けると、もう目の前からは、海も黄色の木枠も



そして、千帆も



消えていた……。


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