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第81章 ばたばた観光
前の彼の時は、稜が2人でいろいろ決めようとしても。
仕事のせいにして逃げ回り。
何かにつけてケチをつけて、式場の下見に行くのを嫌がったり。
指輪を見に行く約束の日に子どもの熱が出たと言われたり。
今思い出したら、明らかに嫌がっていた。

でも当時の稜は必死で。なんとかしようと動き回って。
余計に関係をこじらせていた。

「悪いけど、俺待たないから」

強い口調の声がして、現実に戻される。

稜がはっとしたのを見て、羚汰もはっとしている。

「あ、ドレスとかは、ゆっくり選んでいんだけど。式の内容とかも、勿論相談して決めるし。諸々はゆっくりでもいいんだけど」

慌てて説明している羚汰に、稜は首を横に振る。

「え、何?」

この気持ち、どう説明していいのかわからない。

「あ、わかった。稜の両親?確かに就職決まってないから、許してくれないかもって心配?」

それがナイといえば、嘘になる。
あんなに今でも心配しているぐらいだ。

「それは安心して。も、ほぼほぼ決まってるから」

「え!決まったの!?決まってるの?」

何だかデリケートな問題かと思って聞くのを躊躇っていた。
大手の貿易商社やイタリア関係の輸入会社など、いくつかの面接を受けたのは知っているが。

「うん...。前から誘われてて。でも、ずっと迷っててさ。なんだか安直な気がして。それにコキ使われそーだし。社長は横暴だし」

それってー。

「そ、あの森グループ」

やっぱり!
ラコルテのオーナーの、アキラさんの所。

「春にさ、個人秘書みたいにして全国連れ回されたじゃん」

忘れもしない。
ペンションを貸した代償だとかで、3週間コキ使われた。
その間はずっと会えなくて。
それが延々と続くのだろうか。

「あの時は流石に勉強なったけど、ずっとあれはキツいしさー。それだったらソッコー断ったんだけど」

ラコルテは今、イタリア料理としては中途半端なクラスらしい。
イタリア北部の料理もするし、南部の料理も。
ピザやパスタなどがメインのランチにも力を入れるし。
ワインなどを取り揃えて高級感も打ち出したい。
そのせめぎあいで、なんとも中途半端になっているとか。

「だからさ。今度、分野に分ける方向らしいんだ」

ピザやパスタなど庶民的で若者に向けた手軽なお店と。
ワインやチーズなど素材や雰囲気に拘った、高級なお店と。
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