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第81章 ばたばた観光
「...稜。...おっ」

指輪のついた左手で、羚汰の口を軽く押さえる。

「最後まで言わせて」

頷く羚汰を見てその手を戻すと、座り直す。
羚汰を見つめながら、一つ呼吸をしてまた話し出す。

「私はクラウディアさんとは違うよ。もし羚汰が私を置いて1人でイタリア来たとしても。追いかけて押しかけて。追い払おうとしても離れてやらないつもりだから」

羚汰の瞳がまた大きくなった。
それから、不安そうな顔にすっと変わる。

「...イタリアで生活出来んの?しゃべれないのに?」

「どうにかするもん。そのうちきっとしゃべれる」

この数日間で、イタリア語の難しさを痛感した。
スマホアプリで予習したと思っていたが、挨拶以外はさっぱりだった。
才能がないのはわかってるけど。時間をかければきっとー。

「あの友達も、いないよ?」

「それは、転勤があったって一緒でしょ。大丈夫よ。今はLINEとかでつながりさえすれば、いつでもどこでも話せるし」

有希子も千夏も驚くだろうけど。
月一のランチ会には参加出来なくなっちゃうけど。

「犬のカイにも会えなくなるよ」

「...写真や動画送ってもらうし」

くっくっくっ、と羚汰が笑っているのに気づいた時には羚汰に抱きしめられていた。

「サスガ、稜だね!」

「へっ」

今度は稜が驚く番だ。

「やっぱり、稜。スゴイよ。こんな素敵な奥さんどこにもいない。スゲー幸せ」

ぎゅううっと抱きしめられて、苦しい。

「...羚汰?」

「ごめんな。不安にさせて。そんな事まで考えてるって知らなかった」

いつもの匂いに包まれて、安心する。
稜も手を伸ばして羚汰の体を抱きしめる。
なぜだか、涙が頬を伝っている。悲しくはないのに。
羚汰がそれに気づいたのか、頭を優しく撫で始めた。

「でも、安心して。俺がやりたいことって、日本にあるから」

「えっ?」

羚汰の肩に乗せていた頭を上げる。

「その前に。もうすぐ着く。さ、降りるよ」

散々話をしまくって、気が付けばもう目的地らしい。

涙をぬぐって、羚汰に引っ張られ立ち上がる。
油断していてそのまま抱きしめられ、唇が触れた。

「!」

「愛してるよ」

「ちょっ!」

周りを見渡すと、この駅で降りる人が多いのか日常茶飯事なのか誰も見ていない。

「ほら急いで」

荷物を抱えて慌てて電車から降りた。
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