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第47章 思い込み
「うふふ。そう?」

毎日のことだから、そんなに大変と思ったことはない。

第一、稜はいつもナチュラルな軽目のメイクだ。

「メイクしないで、素で勝負しなきゃいけない男性のほうが大変とおも、きゃっ」

グロスを塗り終わると同時に、羚汰が抱きついてくる。

「可愛い」

塗ったばかりのグロスに、唇がそっと重なる。
軽く開いた口から柔らかく舌が交わされる。

「...羚汰。羚汰についちゃったよ?」

「ん?」

羚汰の唇がグロスで光っている。

「マジで?」

そう言って、さっきまで稜が覗き込んでいたテーブルの上の鏡を覗きこむ。

「俺もかわいい?」

唇を尖らせて振り向く羚汰に、稜が吹き出す。

ソファの上で抱き合ってじゃれ合う。

「もう、そろそろ行かないと間に合わないよ〜」

「んー。じゃ、行くー?」

2人でまたチャリに乗って駅に向かう。

昨日ほど急いでなかったのだが、途中でたまたま通りかかった警官に呼び止められ二人乗りの注意を受けてしまう。
最後5分ほどは、自転車を押して早足で駅に向かうハメに。

「うわー、ギリギリっ」

「なんとか間に合うよ、ありがと!」

大急ぎで改札に入り、振り返ると笑顔で手を振る羚汰が見えて嬉しくなる。

今日も1日仕事が頑張れそうだ。



そうやって数日が過ぎ、とある木曜日。

正月の雪騒動の忙しさもようやく落ち着いて、通常の業務内容になっていた。

稜が銀行から行って帰ってくると、エレベーターを降りたところで瞳に捕まる。

「高崎さんっ!今電話しようと思ってて」

「?どうしたの?」

瞳はダンスをしていてカラオケではハジケているが、普段はどちらかと言えば大人しく落ち着いていて取り乱すことは少ない。
その瞳が慌てているので、何かあったのだろう。
手に携帯を持っている。

「あの、社長も数子さん出てるし、桃香さんが今対応してるんですけど...」

誰かクレーマーでも来たのだろうか。

「その、...高崎さんの婚約者って方が来てて」

「はぁっ!?」

「高崎さんが帰ってくるのを待つと言われて」

慌てて会社のドアを開ける。

ドアからほど近いミーティングスペースに、その婚約者を名乗る人物が腰をかけていた。
小指を立てて出されたコーヒーを飲んでいる。

「あ、稜さん、お帰りなさい」

そう呼ばれて背中をぞっとしたものが駆け下りる。
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