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第53章 旅行 〜後編〜
「それに、俺、稜が思ってるほど何でも出来ないし。結構コンプレックスだらけなんだけど」

「嘘!」

速攻で否定する稜に、羚汰が苦笑いしている。

「嘘じゃないって。まず、背がちっこいだろ」

確かに、正確にはわからないが、170センチ無い身長で、小柄なほうだろう。

稜が160センチちょうどなので、その差はおそらく7センチ程度と踏んでいる。
背の高いハイヒールやブーツを履くのを、2人で出掛ける時はちょっとやめてみているのは内緒の話だ。

「年相応に見られないし。高いところ苦手だし。それに...、兄貴たちと違って、随分遠回りな事してるから、親は呆れてるし」

「呆れてるの?」

「んー、呆れるっていう言葉があってるかどーかわかんないけど。冷ややかに見られてる、ってカンジかなぁ」

羚汰の兄と姉は、順当に大学を出て、誰が名前を聞いてもわかるような所に就職し、結婚して子どもも生まれ、親が自慢出来るような生活を送っている。

それに比べて羚汰は、まだ学生で。学費の一部はまだ仕送りしてもらっている。

「小さい頃から兄貴たちには、何やっても適わなくて。可愛がってはくれてたけど、ずっとバカにされてたからさー」

歳が離れているから、羚汰が出来なくて当たり前のことでも、「そんな事も出来ないのか」と呆れられることが多かった。
それが嫌で、必死でなんでも自分でこなし。
喜んでいたら、「そんな事で喜んで」とバカにされるから、ポーカーフェイスで誤魔化してきた。

何でも卒なくこなしている羚汰には、そんな理由があったんだ。
凄く意外で、なんと言葉を発していいかわからない。

複雑な顔をしていたのか、羚汰がふっと笑ってその顔を撫でる。

「だから、変な意味じゃなくて、顔がころころ変化する稜が凄く羨ましい」

「羨ましい??」

羚汰が?私を??

「そ。なんていうか...。稜のようにありたい、ってこの頃よく思う」

なんだか、すごく恥ずかしい気持になるのはどうしてだろう。

言った羚汰もその様で、珍しく照れて赤くなっている。

「あー、もう。なんか言ってること自分でわかんね!ごめん。変なこと言って。忘れて」

羚汰が頭をくしゃくしゃと掻き回し、稜に背を向け陶芸売り場を歩き出す。

「そろそろ時間じゃね?あっち行ってみっ、うぉっ」

その背中に稜が珍しく抱きついた。
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