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第54章 旅行~羚汰side編~
昨日一日降った雪が、ほんのり積もっている。

チェーン巻くほどではないかもしれないが、このロッジまで羚汰たちしか入って来ていない。
新雪の坂道を下りて行かないといけないのだ。
チェーンが必要だろう。

ユウに聞いて、なんとなくわかったつもりでいたが、チェーンを巻くのは初めてで苦戦する。

なんとかチェーンを装着して、一度ロッジに帰った。

ちょうど稜が出て来ていて、手になにやらいっぱい持っている。

「何持ってんの?」

「えっと。そこバスタオルとかあるの?」

そうか。バスタオル。確か何もないと聞いた気がする。

「ナイかも」

「そーかなと思って。はい羚汰の分」


車に乗り込んで、ホテルに停める。
ロビーで鍵を貰ってから、露天風呂に歩いて向かう。

細い山道の中に、ぽつんとある和風の建物で。
木で出来た塀が数十メートル、その場を囲っている。

鍵を開けて中に入ると、そこはすぐ小さな脱衣所で。
そして、仕切りもなくもう露天風呂だ。

岩場で囲われた温泉は、家族風呂として貸し出しているだけあって、ゆったり6、7人ほどが入れる大きさだ。
ロッジに付いていたジャグジーの3倍程度。
その半分ほどに小さな、しかし趣のある屋根が付いている。

山の谷間のようなところにあり、すぐそばに小さな滝と川が流れている。
和紙の灯篭があちこちに灯してあって純和風の雰囲気だ。
鳥がときおりさえずっているのが聞こえる。

昨日降った雪が、それらの景色にうっすら白く積もっていて、なんとも趣のある景色だ。

「すごい素敵...」

稜がバスタオルや着替えとおぼしき荷物を抱えたまま立ち尽くしている。

覗き込むと、目をキラキラさせている。

絶対喜ぶと思った。
稜が嬉しそうにしてると、俺まで嬉しいのは何でだろ。

つい顔がでれっとしてしまう。

「ほら。入るよ」

着ていたスエットを素早く脱いで、入口の甕で掛湯をしてお湯につかる。

ホテルから少しだが歩いてきたので、体が冷えている。
お湯の熱さが骨にしみる。

「あー、気持ちいー」

振り返ると、稜がゆっくりお湯に足先を入れていた。
このご世に及んで、小さいタオルで前を隠している。

今更...。

その様子さえ愛おしくて、ホント俺、ヤバイ。
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