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NEXT 【完結】
第55章 スーツケースの秘密
バレンタイン当日。

今年は土曜日ということもあり、羚汰のバイト先のラコルテは、何ヶ月も前から予約で一杯で。
なるべく早く帰れるようにすると言っていた羚汰も、結局遅くまで残ることになり、終電も逃し珍しくタクシーで帰ってきた。

マンションの前まで帰ってきたら電話してと、予め伝えてあったので、その通り電話が鳴る。

なり切り、なり切り...。

呪文のように心の中で唱えて、電話に出る。

「稜、今着いてエレベーター乗った」

「わかった。いつもなら玄関まで行くけど、今日はちょっと行けないんだ。ごめんね」

「それは何度も聞いたって。部屋のドアを開けたら、何かわかんないけど、始まるんでしょ?」

「...うん。ドアの前に服置いとくから、シャワー浴びて着替えてね」

それも聞いたよ。

羚汰が笑いながら、嬉しそうに歩き出している。
どうやら玄関まで帰ってきてる音だ。

心臓がもう口から出てきそうだ。

「あ、そうだ。今朝もらったチョコクッキー、店で評判良かったよ。ミズキとユウにほとんど食べられちゃってたみたいだけど」

「ほんと?よかったー」

前日、職場に持って行く為に作った時、羚汰が羨ましそうにしていたので、もう1回焼いてプレゼントした。

「さて。シャワー浴びてくる」

「...わかった。電話切るね」

「ん。じゃ」

電話が切れる。

いよいよだ。

稜は、座っていた椅子に座り直し、短めのスカートのシワを引っ張って伸ばした。

それからいく時間経っただろう。

そんなに経ってない筈なのだが、すごく長く感じた。


ガチャリと音がして、部屋のドアがいつになくゆっくり開き、学ラン姿の羚汰が顔を出す。

偶然数日前に美容院に行ったらしく、金髪に近いぐらい明るかった髪の色が、明るい茶色になっている。
少し髪も短くなっていて、慣れるまで少し違和感があったぐらいだ。

その髪が、黒い学ランに映えて眩しい。

詰襟を留めずに開けていて、中のシャツは用意が出来なかったので、恐らく素肌に直接着ている。
ズボンは少し腰履きで、明るい髪の色だし、相変わらずピアスはジャラジャラしてるし、見るからに真面目な高校生ではない。

その羚汰が顔を出して稜の姿を見つけると、弾けんばかりの笑顔で部屋に入ってくる。

その笑顔との格好のギャップに、心を打ち抜かれたように動けなくなってしまう。
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