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第55章 スーツケースの秘密
そのチョコを口に入れ、羚汰のも、と手を伸ばそうとしていると、そのまま押し倒され唇が重なる。

「んふっ...んっ...」

今度は2人で1つだからか、水を飲んでいたからか、艶めかしく舌が踊って、稜を翻弄する。
溶けたビターチョコレートが今までのは格段に苦い甘さと、フルーツリキュールの香りで口内が満たされて、いつもよりクラクラする。

「ん、美味し」

堪能した羚汰が、笑って稜の口から零れる唾液を舐めあげる。

「はぁっ...りょうたぁ...」

「ん?もっといる?さっきので、一通りいったよね?次はどの味にしよっかー」

チョコの箱に手をかける羚汰の手を遮る。

「まっ...て。チョコだけじゃ、ない...から」

呼吸をなんとか整えながら、サイドテーブルの紙袋を引き寄せ、中の箱を手渡す。

「はい。これも、バレンタインのプレゼント」

「えっ、マジで?」

チョコだけだと思っていたのだろう。

その箱は、海外の某ブランドショップの物で。
羚汰が持っているあのパーカーのブランドだ。
濃い茶色の箱に、明るいオレンジのリボンがかけてある。

羚汰がそのリボンをするするとほどいて開けている。

「本当は、ジャケットとか、上着にしようかと思ったんだけど。やっぱり趣味が合わなかったらいけないから、無難なものになっちゃったー」

箱の中には、そのブランドの男性用の下着がいくつか入っている。

「あはっ。パンツだ」

ブランド特有の派手な柄のボクサーパンツ3着と、部屋着の上下が1着入っていた。

「すっげ!これなんて、景色だね」

最近の印刷技術は素晴らしく、写真をプリントしたかのようなデザインのものがある。
牧場の景色で、ひつじが数匹草を食んでいる。

そうかと思えば、幾何学的なサイケデリックな柄物もあり、オーソドックスな無地もある。

部屋着の方は無難な色合いだが、その分、飽きが来ず長く着れそうだ。

羚汰がそれらを広げて固まったかのように見つめている。

「...どうかな?着れそう?」

「うん。ありがと!スゲー気に入った」

にっこり笑う羚汰に、ほっとする。

「ここのブランド高くて、なかなか買ったことナイよ」

羚汰が持っているのは、あのパーカーだけらしい。

「しかも、あれも、イギリスに居るときに飛び降りて買ったやつだしー」
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