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第56章 カラダでお支払い
従業員控室って聞いてきたのに、小ぶりではあるが、社長室兼応接室のようだ。
といっても、稜は小さな保険会社にしか勤めたことはなく、テレビで見たことがあるイメージでしかなく、よくわからない。

入り口でキョロキョロしていると、コートを脱いでハンガーにかけながら、先ほどの美青年が微笑んでいる。

「もう斉藤くん来ると思いますから、そこ座ってて下さい」

「はい...。すいません」

しずしずと、ソファーの隅っこに座る。
マフラーを外しながら、スマホを取り出して見てみるが、まだ既読にはなってない。

何かあったのだろうか、不安になって顔を上げると、至近距離にさっきの美青年の顔がある。

「ひゃっ!」

いつの間にか、広いソファなのに、稜のすぐ隣に座ってきて稜を覗きこんでいる。
あまりの事に驚いていると、美青年はくすくす笑い出した。

「んー。確かに、表情が豊かかもねー」

切れ長の目にマジマジと見つめられて、ほっぺたを指先でつつかれる。あまりの出来事に体が固まってしまう。
長いまつげと、色素の薄い透き通るような瞳が、笑うと少し垂れて、より一層柔らかい雰囲気を醸し出す。
先ほどのぞくりとするような妖しい光は消えていて、見間違いだったのかと思えてきた。

なんだか懐かしいような、どこかで会ったことのあるような...。

ソファの隅っこに追いやられて固まって動けずにいると、階段を駆け上がるようなドタドタとした音がして、ドアが勢いよく開く。

「稜っ!!!」

びっくりして声の方を見ると、息を切らせた羚汰が入ってきた。
ずかずか入ってきて、ソファの手すりの部分にもたれかかるように追い詰められていた稜の腕を引っ張り立たせる。

「アキラさん!稜で遊ぶのやめてもらっていいですか!」

へっ、アキラさん??

羚汰の背中に隠れながら、ぐるぐると思考をめぐらせる。

アキラさんって、あのオーナーの一族のアキラさん?
全国のラコルテをマネージメントしまくっていて、美男美女なスタッフを自ら選んでハーレムを作って、引き連れて遊び回っている?
そして、ユウの若き父親。

「意外と早かったね」

「はいっ。これ、買ってきましたからねっ!」

何やら買ってきたであろう紙袋を、アキラさんと呼ぶ青年に叩きつける。

羚汰はどうやら、アキラさんの命令で買出しに行かされたらしかった。
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