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第56章 カラダでお支払い
アキラは、投げつけられた紙袋を上手い具合にキャッチして受け取っている。
特段気を悪くした風もなく、むしろ嬉しそうにニヤニヤと笑っている。

「じゃ、休憩行ってきますから!」

稜の腕を引っ張り、部屋を出て行こうとする。

「リョウ!...例の件もお願いしますよ?」

一瞬、羚汰の足が止まりかけるが、振り返らずにそのまま部屋を後にする。

何がどうなっているか稜にはわからないが、挨拶しないと。

「し、失礼します」

そう言ってお辞儀をしようとしたのだが、半ばで羚汰に肩を掴まれてそのまま部屋を出る。

何か理不尽な頼まれ事をされたのだろうが、上司どころかお店の幹部にそんな態度を取っていいのだろうか。

部屋を去り際に、振り返ってアキラの顔を見たが、そんな羚汰の態度を気にする様子もなく、楽しそうに紙袋の中身を開けているようだった。

「ちょっと、羚汰、いいの?」

無言の羚汰がぐんぐん歩いて、階段を下りる。
従業員用のドアをくぐって、やっと一息をついたようだ。

そして、急激に思い出したのか、稜の両肩を掴んで顔を覗きこむ。

「何もされてない!?」

「へっ」

「チューとかハグとか...その、モロモロ」

なんだか言い難そうに、だけど鋭いまなざしと共に勢いよく聞いてくる。

「...何も、されてない」

本当は、至近距離でほっぺを突っつかれたけど。
その程度は、関係ないだろう。

「よかった...。悪い予感はしたんだよね。アキラさんが買い出しに行ってこいって言った時に」

とりあえず、離れよう。

そう言って、少し落ち着いた羚汰が、手をつなぎ直して歩き出す。

歩きながら、遅くなった説明をはじめた。

いつもの事だが、アキラが急に店に来た事。
何かにつけて、羚汰に絡んできて用事を言い付かる事。
休憩時間に稜と会うと小耳に挟んだらしく、ギリギリになってワザワザ羚汰指名で、買出しを頼まれた事。

「ほらさ、ロッジ借りた時に"カラダで返せ"って言われてたじゃん」

そういえば、そんな事を言われていた。
あの時、稜は心配したのだ。

カラダ=そっち

かと。

そうではなかったと思うと逆にほっとする。

安心してその事を羚汰に伝えると、羚汰が複雑に困惑した表情を浮かべた。

「それが、まただ続きがあってさ...」
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