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第56章 カラダでお支払い
確かに、物腰は柔らかく言葉などは丁寧だったが、半ば無理矢理あの重役室に連れていかれた。

「あのぐらいの人だったら、秘書とか連れててもおかしくないと思うんだけど。全部自分でやってんだよね」

イタリアンレストランのラコルテは全国に数店舗だが、他にも和食のお店や、鉄板焼きのお店などが各地にあり、それらのマネージメントをほぼ1人で行っているらしい。

稜には、世界が違いすぎてよく頭に入ってこないが、森家的には他にも、建設業、マンションなど不動産や管理業、ホテルやスパ、ゴルフやマリン関連事業、IT関連など、各種事業があり。それを一族の誰かかれかが携わっている為、アキラだけが特殊というワケでもないらしい。

「んで、ここでこの前の"カラダで返せ"ってのが、出てくるんだけど...」

話が明後日の方角から急激に戻ってきた。

カレーが運ばれては来たものの、2人ともなかなか食べる事が出来ずにいた。

スプーンを握ったまま、羚汰も言い出しにくそうにしていたが、意を決したのか口を開く。


「これから、3週間ほど、アキラさんについてかなきゃいけないんだ」


その言葉が、聞こえてはきたものの、理解する事が出来ずにいる。

ついていく?
3週間??

「ホントは、春休みの間ずっと、って言われたんだけど。それは流石に勘弁してもらった」

「...いつ、から?」

まだ頭で理解が完全に出来たわけではなかったが、そう口から出た。

思い出したように、稜もカレーのスプーンを拾い上げる。
その手が震える。

「明日...。朝一の飛行機」

震える手に気がついたのか、稜の手に羚汰の手が重なる。

「俺は今日初めて聞かされたんだけど。アキラさん的には随分前から決めてたみたいで。シェフに話は通ってた」

羚汰が3週間も居なくなる。
そのことが次第に現実味を帯びてゆく。

「いつか話そうと思ってたんだけど。俺、将来、自分の店を持つのが夢なんだ」

本格イタリアンなんだけど、ラコルテのような高級なものではなく。誰でも気軽に楽しめる家庭的なお店。

「稜、イタリアの"バール"って知ってる?」

「バール?」

スペインバルなら行ったことあるが、イタリアのバールは、初めて耳にする。

「そ。何て説明したらわかりやすいかなー。立ち飲みのカフェと、お惣菜屋さんと、居酒屋なんかが合わさったカンジかなぁ?」
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