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第57章 春愁
「そうなの。ある日突然髪とヒゲさっぱりして帰ってきてさー。何かあったのかと思うじゃん?」

色黒なのは元々なので、変えようがなかったらしいが、変えれるところは、すっぱり変えてきた。

黒々とした長髪を切り、少しだけ髪色を明るくして、軽いパーマをかけ、ふんわり片側を盛り立たせる、今風の髪型らしい。

「今度は、何目指してると思う?」

ここまで来たら、誰かモデルがいるのは稜にも千夏にもわかった。
有希子が、心底嫌そうに肩を落としている。

「誰?誰?」

「気になる!」

きっと今流行りの人物だろうから、月9の俳優さんか、朝ドラの俳優さんか。はたまた、ダンサー系で、同じグループの人だろうか。

一呼吸置いて有希子が呆れたように正解を発表する。

「DAIG〇よー!!D〇IGO!!今更じゃない!?」

そう言われて、一瞬、誰のことかわからなかった。

「え。あの、最近、略語みたいなのやってる、あの?」

「そうなの!さすがに、尚はそっちはバカだから、やんないっていうか、出来ないみたいなんだけどさぁ」

ひどい言われようで、またもや苦笑するしかない。

「子どもたちにせがまれて、“ウイッシュ”はやってるわー」

真面目な顔で手振りをつけ有希子が説明するのがおかしくて、思わず2人とも吹き出す。

「ちょっとー。笑い事じゃないんだけど」

そう言いながらも、自分がとったままのポーズに気づいて有希子も笑い出す。

「ごめんごめん。だって有希子が〜」

「んで、今回は似てるの?」

「ぜーんぜん似てないのよ?だって、DA〇GOって細くて白いでしょ。尚、ゴツくて色黒よ?真逆よ!ただのチャラ男!!」

確かに、色黒マッチョのDAI〇Oは想像つかないし、その時点で別人だ。

「この歳で、チャラ男〜?写真ないの?見たい!」

「本人が調子に乗るから、写真には撮りません〜」

なんでも前回携帯カメラで写真を撮ったのを、何を勘違いしたのか、
『嫁さんが、俺の写真を持ち歩いてて〜』
と、図に乗って仕事仲間に吹いていたらしい。

「やだ。自意識過剰〜?」

「でしょー。腹立つからもうカメラは向けないの」

「でもまあ、その様子だと前のより子供たちにはウケがいいみたいね」

なんとかフォローするつもりで稜が、会話の流れを変えてみる。

「まあね。前の、チンピラ風なのより、チャラ男のがまだいいけど」
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