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第61章 お花見
羚汰の唇が、下唇をやさしく包むように挟み込む。
思わず吐息が漏れて、その吐息ごと吸い込むようにはむはむと何度も触れる。

羚汰も体を起こしてきて、抱きあおうかというとき、羚汰の背中にボールが転がってきて当たった。
そんなに勢いよく当たったわけではないが、突然のことに二人とも驚く。

「うおっ」「ひゃっ」

ボールといっても、おおきなビーチボールだ。

跳ね返って飛んでいくほど空気も入っておらず、近くに転がっている。

「びっくりしたー」

キスしてるのが鬱陶しくてぶつけられたのかと稜は焦ったが、このボールには見覚えがあった。
近くの若い家族連れが遊んでいたボールだ。

見渡してみると、若いお父さんの背中に隠れながら5歳ぐらいの男のコがボールを取りにやってきた。

「すいません〜」

「いえ。はい、どーぞ」

手を伸ばして羚汰が拾い上げ、男のコ目掛けて転がしてやる。

「ありがとうございます」

もじもじと照れたままの男のコは、お礼を言うお父さんの背中に隠れたままで。
顔を出して目が合うものの、すぐ顔を隠した。
そのお父さんがやたらとお辞儀を繰り返しながらふたりで去っていった。
その後ろに2歳ぐらいの弟がてこてこ歩いて追いついてきて、こちらはにこーーっと笑って愛想を振りまいて、またお父さんとお兄ちゃんの後を追いかける。

「うわ。何あの兄弟。すげー可愛い」

「うん。どっちも可愛かったね」

ボールを取り戻した兄弟が、またきゃっきゃと笑いながら投げあって追いかけ回している。
お父さんは遠くに転がりそうになるボールを拾っては、2人にやさしく投げ返している。あたふた忙しそうにしているようだが、そんな姿さえ微笑ましい。
お母さんはビニールシートに座って、そんな家族の様子をにこにこして眺めている。

「なんか...いい家族だね」

「うん。可愛い家族だね」

羚汰と稜は並んで座って、その家族を見ていた。

ふと視線を感じて稜が顔をやると、羚汰がにっこりと見つめていて。

「何?」

「...稜は子ども好き?」

「う、うん。まあ...好き、かな」

そんな事を聞かれるとは思ってなかったので、なんだか焦ってしまう。

あまりそのテの話が今まで出てなかった。
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